2006年10月 南アルプス、甲斐駒黒戸尾根、仙丈、鳳凰三山縦走報告
その7 高瀬正人
2006年 10月6〜10日
10月9日(月)体育の日 快晴
○モルゲンロートにとけのこる月
昨夜の風がうそのような、静かな、素晴らしい晴天。ようやく3日目にして絶好の天気だ。辺りを染め始めたモルゲンロートにせかされるように、早川尾根のツエルトをたたむ。
5時50分、遅めの出発。今日はどこまででも良い。成り行きで行く。仙丈ガ岳の右上に小さな満月。モルゲンロートで赤みがかった山並みが美しい。賢治の詩の中でも最も好きな「有明」という詩の一説「起伏の雪は、明るい桃の汁をそそがれ、青空にとけのこる月は、やさしく天に咽喉を鳴らし、もいちど散乱のひかりを呑む」明るい桃の汁モルゲンロート、まさに青空にとけ残る満月だ。

仙丈ヶ岳上の月
○高嶺の登りでふたたび涙
広河原峠より東に眼をやれば、八ヶ岳がくっきりその優美なスカイラインを見せている。さらに白鳳峠までは、楽な散歩だ。これより高嶺への登り。這松、しゃくなげ、だけ樺の連続する、急な登り。高嶺の山頂付近からまぶしい朝日が私を照らし、その影が白鳳峠に映っている。あれが私の影か。とてもうれしい。こんな登りが私はとても好きだ。不覚にもまた、熱きものが込み上げる。幸福感或いは、充実感そんな言葉ではないもの、自分に最もぴったりとしたもの、今生きていることが素晴らしく思えるそのような時、そんな中にいた。

高嶺より白鳳峠側の黄葉 高嶺山頂甲斐駒をバックに
○白砂青松に、紅葉、黄葉の鳳凰三山にあそぶ
素晴らしい展望台高嶺を後に約1時間、アカヌケ沢の頭に到着。まだ9時20分過ぎだ。
この稜線は美しい。花崗岩の白砂に這い松の緑、真っ青な天空に紅葉、黄葉の彩り。さらに遠く富士山、北アルプスの真っ白な雪、初日の黒戸尾根の荒天を帳消しにしてもあまりある。ザックを置き地蔵岳のオベリスクへむかう。下部の易しい岩場から最後の大きな岩峰に着くと、そこには中高年のヘルメット姿のおっちゃん数名がフイクスロープで格闘している。これが有名な、ウエストンが初登の際に投げ縄を使用して登ったところだ。
なかなか、空きそうにもないので、証拠写真を撮り下降する。この地蔵岳周辺は多くの登山者で賑わいをみせている。鞍部には多くの祈念仏が建立されている。四国からと言うおばちゃんたちとしばし駄弁る。

地蔵岳のオベリスクと紅葉 オベリスク頂上の岩峰
○観音、薬師から南御室小屋へ稜線漫歩
地蔵岳で戯れすぎた。おかげで観音岳への登りではすっかりばててしまった。集中、一歩一歩に集中、前方に気持ちを置くな。体の中心に置け。ゆっくり、さらにゆっくりと行け・・・、自分に言い聞かせる。このころ陽射しが強く、上はTシャツだ。正面には富士山、右手には北岳バットレス、白鳳三山が雄悠と立つ。どこを切り取っても絵になるところだ。
白砂を踏みしめての稜線漫歩。薬師小屋にてご褒美のビールを飲む。この小屋もこじんまりしたいい小屋のようだ。シチュエーションは最高だ。
ほろ酔いで心残りの薬師小屋をあとにする。南御室小屋までは緩やかな下りで、まだ12時半だ。ふらふら、おりからの陽射しとビールのおかげで、気分は最高。
南御室小屋には13時20分着。今日はここまで。誰もいないテント場で今日はゆっくりとツエルトを張り、とっておきのぜんざいを食べ、草むらの中、トカゲを楽しむ。

観音岳より南アルプス南部の遠望
コースタイム
早川小屋5:50〜白鳳峠7:10〜高嶺8:20〜アカヌケ沢の頭9:20〜観音岳11:15〜薬師岳11:47〜南御室小屋13:20
(行動時間7時間30分)
(つづく)
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