2006年10月 南アルプス、甲斐駒黒戸尾根、仙丈、鳳凰三山縦走報告
                        その6
   高瀬正人

                                2006年 10月6〜10日

10月8日(日)曇りのち晴 強風

○新雪、シュカブラの仙丈ヶ岳
 小屋ではストーブで濡れたものを乾かせ、暖もとれたが、昨夜は隣人の凄まじいいびきでほとんど眠れず。雨は夜半に止み、3時ごろより行動する人もいた。

眠れぬ夜に、今日の作戦を考える。仙丈には極力軽装で往復し、余力があれば早川尾根を行ける所まで行く。状況によっては、ビバークも止むなし。このために購入したツエルトを試してみる事にする。

 5時40分、小屋に荷物を預け、サブザックがないので、寝袋カバーに今日最低限の装備を詰め、出発。正面に、見えるはずの小仙丈ガ岳の稜線はガスって見えず。北沢峠手前より二合目へあがる近道をゆく。

程なく木々の間から、北岳方面が見えてきた。七合目付近より雪だ。昨日の疲れや、眠れなかった影響はなく、気分はハイ状態にあるのだろう。約1時間余で大滝頭。仙丈の五合目だ。振り返ると、右手に鳳凰三山の稜線が見え隠れしている。正面の甲斐駒は八合目から上が雲の中。摩利支天はその一部が見えているだけだ。

左手には鋸岳、かつてOMCJに入り、はじめての例会で栗さんが、鉄道学園山岳部で登った報告をしていたことを思い出す。この山は手強い山だ。その稜線は硫黄岳西尾根を思い起こさせる。残念ながらこの稜線も雲の中、雲は左から右へ、西から東へ激しく行き来している。まもなく、小仙丈への登り、森林限界を越え、視界が開けた。

思わず、凄い。美しい。這松の緑の上にシャーベット状の雪、馬の背周辺は紅葉の様々なテン曲模様。登山者が豆粒のようにかすかに動いている。西側より寒風の中をその跡を追う。小仙丈よりゆるやかな登りをさらに1時間余り、積雪2〜3cm、この悪天にもかかわらず、多くの登山者とすれ違い、追い越しながら、ようやく、シュカブラの付く仙丈ガ岳山頂に着く。8時30分、所要2時間50分、標高3033m、ここでも視界なし。感慨もなく、往路をひきかえす。

 帰路小仙丈ヶ岳付近で天候が急回復してきた。南の北岳、鳳凰三山、遠く富士山がはっきり、くっきりと見えてきた。鋸もその特徴あるギザギザをみせてくれる。仙水峠越に黒戸尾根が望める。残念、甲斐駒は相変らず、八合目より上は雲だ。北沢峠に着く頃には天気はすっかり回復、晴天快適だ。駒仙小屋のテント場にはおよそ50余りのカラフルなテントがそのまばゆい暖かい陽射しの中で輝いている。さほど疲れはなく、小屋前でトカゲを楽しみながら、次への準備をする。

     
          小仙丈への登り                       仙丈ヶ岳山頂


              
                          馬の背側の黄葉と霧氷


○天気晴朗なれど、風強し
 ようやく訪れた好天に気持ちは既に早川尾根だ。昼前に再出発。北沢を左手にみながら、仙水小屋をへて、仙水峠に到着。眼前に摩利支天の岩壁が圧倒する。山頂付近がかすかに見え隠れする。もっと上へ。早川尾根へのわかりにくい登り口を捜しながら、急登の栗沢山へ向かう。

こんどは左側、黒戸尾根側からの風が強烈だ。天気は回復したが、風だけは遠慮会釈ない。峠より1時間20分、ようやく栗沢山着。この登りはきつかった。しかしながら展望に恵まれたおかげで、きつい登りを楽しめた。これからは快適な稜線、ほんとの縦走気分が味わえる。ようやく甲斐駒の赤石沢が見えた。上部のダイヤモンドAフランケに目を凝らす。しかしよくわからん。クライマーらしきものも見えない。残念ながらこの位置からは期待していた迫力ではない。

○早川小屋で、ツエルト張り、烈風と5時間の格闘
 アサヨ峰からは新雪の富士が美しい。もちろん北岳も大きく近く見える。鳳凰、地蔵のオベリスクがはっきりと見える。さて今宵の宿、早川小屋までの稜線でツエルトを張ろうとしたが、風を避けられ、平坦な箇所は1箇所だけ、しかもそこには先客がテントを張っていた。やむなく疲れた体にむちうち、早川小屋へ。

陽ざしは傾いてきた。振り返ると甲斐駒の赤石沢、黒戸に夕陽がさしている。夕陽の陰影でここからみる岩壁は迫力あり。早川小屋は満員。テント場の奥、樹林の中に、ツエルトを張る。強風で思うようにツエルトが張れない。30分もかかって、周りの木々にくくりつけ、ようやく中に潜り込む。ポールの袋が飛ばされ不明。

 17時25分、辺りは既に暗くなる。風はますます強くなり隣のテントでもペグの張り直しに懸命な様子。狭いツエルト、おまけに強風のためコンロは使えない。行動食をかじりながらふと、尾白荘のおかみから貰ったビニール袋が目に付いた。しめた。早速おとといのじゃがいもにかじりつく。貴重な夕食だ。

止んだかと思うと、強烈な風がツエルトごと吹き飛ばさんばかりに吹き付ける。思わず、南無甲斐駒不動明王に助けを、イエス、キリストに御加護を祈る。22時ころ、ようやく、風が収まった。ラジオでは昨日の白馬、穂高の遭難事故を流している。さもありなん。あの荒天は北では大変だったろう。この時期の山は怖い。5時間の烈風との格闘に疲れ、しばしまどろむ。

  
        アサヨ峰から鳳凰三山と富士山

                     
                                夕暮れの甲斐駒

コースタイム
駒仙小屋5:40〜大滝頭6:55〜仙丈ケ岳8:30〜北沢峠10:35〜駒仙小屋10:45〜仙水峠12:35〜栗沢山13:55〜アサヨ峰15:05〜早川小屋16:55 (行動時間11時間15分)


(つづく)
その5に戻る
その4に戻る
その3に戻る
その2に戻る

その1に戻る

           おゆぴにすとトップページへ     山岳紀行目次へ