![]() 朝焼けの南東壁 遥かなるアンデス Jirishanca 1973 ・・・ヒリシャンカ南東壁回想・・・ (第13回) 吉賀信市 15.アクシデント 7月10日 晴れ 起床:3時 ビバークはやはり辛い。目覚めは早かったのだが思いっきり良くツエルトを剥げない。 10時20分、篠原が現場に着く。素早く天幕までロープを固定して岡田を動かす。 激痛に悲鳴をあげて苦しむがいちいち聞いてはおれない。我慢してもらう。2人で引きずるようにして11時過ぎに天幕に収容することが出来た。まもなく長塚もC3に上がって来た。午前中は岡田のようすを見守ることにする。相変わらず胸の痛み苦しみを訴えるが、我々には何もしてやれない。ただ見守っているだけである。彼の容体はこれ以上の悪化はないだろうと判断して、午後から3人で荷上げ作業に出る。傷ついて苦しむ仲間を1人置いてまでして行動しなければならないのだろうか。それは傷ついた仲間への思いやりがなさ過ぎるのではないか。しかし、そんな感傷に浸っていたのではこのビッグクライムは出来ない。この好天が続くうちに一気に稼がなければならない。それにはC3への荷上げを早く完了させることだ。このことは岡田も充分理解していると思う。しかし、みんなのショックは隠しきれない。最後の追い込み段階になって最も馬力がある岡田が欠けてしまった。 荷上げは、‘一坪テラス’〜‘大ハング下’〜‘バンド’と2回に分けて滑車を使って引き上げ日が暮れるまでに終えることが出来た。思っていたよりも順調に上がってホッとした。すぐに岡田の待っている天幕へ帰る。苦しみは相変わらずであるが、悪くはなっていないようで少し安心する。3人用の天幕に傷ついて動けない仲間と4人身動きも出来ない。食事の準備をするスペースがなく、ひざの上でラジウスを使用するようなことになった。岡田は胸の痛みでお茶さえも飲まない。日が落ちると急に風が強くなって来た。天幕が『バタ、バタ』と音を立てて激しく揺れる。我々4人天幕ごと奈落の底に吹き飛ばされそうだ。 ![]() 食事を終えて明日からの行動を検討していた所に落石が天幕を突き破りまたしても長塚の頭に命中した。被っていた毛糸の帽子を取ると血が流れ出していたが傷は小さいようだ。毛糸の帽子がかなり衝撃を和らげてくれたようで明日からの行動には差し障りない。 落石はよほど長塚が好きらしくC2でも肩に受けている。このような時のために天幕の中でもヘルメットを被り、固定ロープを引き入れてセルフビレイも取るようにした。 岡田の戦線離脱は大きな痛手であるがやっと頂上攻撃の態勢がととのった。愚痴を言っても仕方がない。ここまで来たのだ。何としてでも残った3人でやらなければならない。 明日は篠原、吉賀でルート工作。長塚は1人で荷上げとしシュラフに足を伸ばす。1晩中、痛みに耐えている岡田のようすがうかがえてなかなか寝つけない。しかし、疲れた身体はいつしか眠りに落ちていた。 (つづく) |