短歌62

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電線に音符のごとくとまりゐて小鳥らは歌ふ早春の譜を(旧作)
山桜豊後の春を整へるしばし待たるる麓の桜               2021.3.17
菜の花の道や時間をさかのぼり過去に着きたるごときふる里(帰郷)  2021.3.18  彼岸の入り
父母ちちははの永久とはの眠りの安かれと手を合はすれば鶯の声(墓参)
広角に替へて撮らばや山桜スマホで送る山国の春            2021.3.22  霊山の山桜
初つばめ頭上掠めて翻りやってきたぞと宙がへるかも(初燕)
春風に自転車少女ヘルメット脱ぎ髪吹かれゆく菜の花の土手      2021.3.25
歌哀し言ひ得ることはわづかにてあふるる思ひ託す言外(古歌を読む)
春ひとり腕組みをれば来し方や夢とうつつと堺なきごと         2021.3.27
春ひとり腕組みをれば来し方や夢とまことと堺なきごと
椿一つ落ちたる外は事もなし猫のあくびのうつる縁側(平和)           パンデミックのなか懐古
花の雨出で行く妻の傘ひらくときの仕草の若き日のまま(再)      2021.3.28
蝶のごと落花ひらひら飛び来たり吾が禿頭にとまるをかしさ       2021.3.29  綽名・しげハゲ
一片の落花にも心痛むかな飛び来てとまる白髪のうえ         2021.3.31 
亡き友のふと思はるる花のもと落花ひとひら杯さかづきに受け
(散りゆきしあまたの命ふと思ふ落花ひとひら手のひらに受け)              旧作
ヘルメット光らせながら漕ぎ急ぐ自転車少女菜の花の土手       2021.4.1
散りて後なほ面影にたつ桜今年の思ひことにまされる         2021.4.5
散りて後なほ面影にたつ桜今年の名残ことに惜しまる
自転車も寝かせ寝ころび若者はスマホをしをりタンポポの土手    2021.4.13
藤の花垂れて気怠き昼さがり蜂のきたりて巡り飛びをり         2021.4.15
永き日を垂れて気怠き藤房に遇魔あふまが時の迫りくるかも               遇魔が時=黄昏
まだながくなりてゆく日の夕間暮れ藤の長房白壁の塀(拾遺)
腕くみて眼まなこを閉じて思ひをり若き日の疑問解けたるもなし     2021.4.19
チューリップ若き男女の見てをれば蝶の飛び来て口づけするも    2021.4.22
(チューリップ若き男女の見てをれば蝶の飛び来てキスをするかな)
窓若葉飲むコーヒーのゆっくりとゴールデンウイーク朝の食卓     2021.4.29
天が下みどりあまねき昭和の日日の丸の旗風にはためく(昭和の日)
愁ひきて園をめぐれば噴上げは季節の廻り祝ひ虹懸く(四月尽)    2021.4.30
帽子脱ぎベンチの憩ひながければ洋杖ステッキにきて留まる蝶あり
相寄りて蝶々縺るる草の上さても狂ほし春の終はりは
思ひ出のいろいろあれどなかんづく棘ある薔薇を折りしあやまち   2021.5.8
花あざみ愛しと思へどまた憎し人目を惹きて触るるをこばむ     2021.5.10  土手の薊によせて
花あざみ愛で近づけば憎きかも人目を惹きて触るるをこばむ
この道の苦き思ひ出薊草棘ある花と知らで触りし
あざみ花咲きて変はらぬ里の道腕白盛りの児らの通へる       2021.5.13
暮れてなほあやめの郷さとの水車止まず回るを月の照らせる(緒方)  2021.5.15  懐古
夏の風窓より入れて髪吹かれ高原道路にぎるハンドル(やまなみハイウエー)       懐旧
牡丹寺いづくと問へば指の先若葉隠れに見ゆる大屋根(牡丹寺連作) 2021.5.20  懐古英雄寺
たづね来し牡丹の寺の石段の急も託かこたず心軽かろきに
一弁もまだ失はぬ緋牡丹にカメラ向くるや美人撮るごと
吊り橋をゆらし渡れば谷深く聞こえくるなり郭公の声(旧作微訂正)   2021.5.22  公園の吊り橋にて
薔薇一輪贈る心の今もかなともに白髪の齢となるも(妻誕生日)    2021.5.26  
薔薇の花血汐のごとく赤ければワイングラスに妻は飾れる(旧作)
ひさびさの梅雨の晴れ間や豊後富士窓を開くれば先づはとび込む  2021.6.3
恋なき手つなぎ園児ら並びゆく姫女苑の花咲ける土手道       2021.6.10
あやめ池雨を湛へて豊かなりアメンボのゐて乱す花影(旧作微訂正)
あやめ池吾が観るほかに人もなし花はなやげど寂し花影(パンデミック)         今年は手入れも疎か


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