移りゆく人の世のこと思ひつつ一人酒酌み除夜の鐘聴く(除夜の懐)
去年今年一夜明くるに過ぎざるにすでに古りたることとなりけり(同) 2016.1.1
初春の眺めよきかな凧の尾を振れるあたりに雪の峰々(追加)
晴れ渡る空の高さを計るごと凧の揚がるを仰ぐ初春(同)
改まる年の初めにまた一つ人の死を知る老ひの寂しさ(同)
庭先や山茶花の花散りゆくに乙女椿の一つ咲きをり(庭園) 2016.1.10
雲間洩る天つ光の束見れば父母居ます処思はる 2016.1.12
初雪に出でて彷徨ふ老ひの身のいとをかしともまたあはれとも(初雪) 2016.1.19
給油所の旗のはためき激しくて由布のあたりを覆ふ雪雲(博多行き) 2016.1.20
初燕早くも見きと驚けど風情なきかな春遠ければ(初燕) 2016.1.21
行く水の寒き流れに脚浸し白き鷺立つ何時までも立つ(七瀬川)
カーテンを引いて見やれば窓の外久住の山の雪の曙(我が家) 2016.1.22
寒き朝白き息吐き走りくる若さに遭ふて冬を肯うべなふ 2016.1.23
淡ければ昼を待たずに消えゆきて水仙の葉に残る初雪(追加)
雪降れば郷くにのことなど思ひ出で子どもに戻るわが心かな 2016.1.26
日向よし日陰なほよし水仙花耐へる姿はまた美しき 2016.1.28
梅二月時を違へず二三輪咲きてをるかな雪間の枝に 2016.2.1
先駆けて咲く紅梅の花の香の仄かに春を匂はせるかな(七瀬梅園)
梅咲くや顔近づけて香を嗅げば古いにしへ人の心伝はる(旧作訂正)
梅が香を嗅げばふる里思はるる軒端の枝に来鳴く鶯(追加)
春風の頭撫づるが心地よく今日の散歩に帽子被らず(立春) 2016.2.4
グランドでボール蹴り合ふ児の遊び日脚の延びて影も加わる 2016.2.11
冬の虹消えてゆくまで見しことを思ひ出しをり夢路の前に(旧作微訂正)
ひさかたの光は風と共にありはためき祝ふ日の丸の旗(建国記念の日)
春浅く足の向くまま出でゆきて池を巡れば蒲公英の花 2016.2.15
後戻る寒さまた好し窓に見ゆ豊後の富士の峰の白雪 2016.2.17
漁の船隊列をなし帰りくる朝靄のなか日の出る辺り(博多行き高速バス・別府湾)2016.2.19
春浅く足の向くまま出で来れば初音聞きたり藪蔭の道(鶯の初音) 2016.2.22
腰かける土手の斜面の暖かく一輪咲きしタンポポの花 2016.2.23
電線に音符のごとく留まりゐて小鳥らは歌ふ早春の譜を(旧作)
遅々として至らぬ春と思ふかな藪の鶯声を潜めつ 2016.2.24
乳母車春を見せんと押して行くタンポポの花咲ける土手道 2016.2.26
(乳母車春を見せんと押しゆくに見つけて嬉しタンポポの花)
残りしか残されたるか二羽の鴨春の流れを並び泳げる 2016.2.27
初蝶の束の間見えて失せゆけど眼に今も残る黄の羽(初蝶) 2016.3.5
初蝶を見し昂ぶりを今一度思ひ出しつつ夢路に着けり(追加)
(初蝶を見し昂ぶりを今一度思ひ出しをり夢路の前に)
腰かける土手の斜面の暖かく上着を脱げばタンポポの花
寝ころびし土手の斜面の懐かしく眼閉づれば若き日の吾
捨てきたる若き日思ふ草に寝て啄木歌集紐解きをれば 2016.3.6
土手を来て土手に腰掛け若草に寝て口ずさむ啄木の歌
(捨てきたる若き日思ひ若草に寝て口ずさむ啄木の歌)
傘さすも楽しと思ふ春雨の街の往来ゆききを見下しをれば 2016.3.9
今日の雲優しく包む豊後富士春になりたることの確かさ 2016.3.15
ひとり行く寂しき道を歩みきて稀と言はるる齢となれる(誕生日) 2016.3.16
腕拱みて眼つぶりて思ふかな若き日の疑問解けたるもなし(旧作)
道岐れこれより先は信号なきふる里の道菜の花の道 2016.3.17
掌を合わせ去らんとすれば鶯の声の大きく父母の墓(彼岸の入り)
花柄の傘をさしゆく女ひとありて目を愉します春の雨かな 2016.3.18