短歌19
みはるかす夕焼け空の彼方にて十万億土君が旅する(Mの霊前に)
現るる山ことごとく装ひぬしばらく降りし秋霖のあと 10.10.23
いつしかに木々は裸になりゆきて雲の衣を纏ふ峰々
黄金なす稲穂もつひに刈りとられコスモスの花強く吹かるる
溜池に日に日に増えてゆく鴨の親子見つけて目を楽します 10.10.25
濡れて立つ白鷺一羽傘さして吾は見てをり秋雨の中
秋晴れの長々つづく土手の道歩いてみたきそのはづれまで
ゆく秋に抗ふがごと残りゐる紅葉数枚風と戦ふ 10.10.27
大方の葉を落ちつくし立つ木々の姿宜しき飾りなければ
散らばりし鴨寄りそひて塊れる池の夕暮れほのかなるかな 10.10.29
秋風の頭撫づるも厭はしく帽子を深くかぶる晩年(散髪)
晩年や後来るひとに追ひ抜かれ遅れつつゆくコスモスの道
ゆく雲をむなしく映す溜池も賑はひ初めぬ初鴨のくる(少林寺の溜池) 10.10.31
ふるさとは遠くて近き思ひありいつも目にある城山の空 10.11.1
ふるさとの一本杉のうえにある空と想へり今日の秋空
金鱗湖浮ぶ紅葉もなくなりてむなしく映る空と雲かな(由布院) 10.11.2
寂しさに眺めてをれば散る落葉舞を舞ふなりわが目の前で(晩秋) 10.11.3
霧はれて夕日に映ゆる山並を秋雨傘をたたみ眺むる
わが姿映してさびし森の池木の実の落ちて影の乱るる(青少年の森の池)
老ひの手にとりて眺むるもみじ葉の色赤ければ花よりも好し
秋の海出で航く船に手を振ればまたと帰らぬ船に思へリ(田ノ浦) 10.11.5
白き船水平線に消えうせて青さを競ふ空と海かな
天翔ける白き鴎の群れ低く空より青き海を恋ひ飛ぶ
藍の色深し思ふ今日の海白きかもめの浪を離れず
手のひらに拾ひて載するもみじ葉の露含めるを老ひの目に愛づ(連作) 10.11.7
手のひらに拾ひて載するもみじ葉を二枚重ねて人ぞ恋しき
手のひらに拾ひて載するもみじ葉にさらに重ぬやなほ色濃きを
風ありて銀杏の落ち葉舞ひ上がるこのひとときの黄金の時間 10.11.8
吹く風の落ち葉を散らす並木道去りゆく秋の姿追ひ行く
二羽の鴨群れを離れて葦の間に隠れゆくなり小春日の池 10.11.9
鴨の顔どれもよく似るをかしさに差別なき世のふと思はるる(双眼鏡で覗いて)
夕さればにはかに暗き池の面なほい寝がてに鴨の鳴くなり
夕されば音色の変はる鴨の声浮き寝の孤独伝ふる憂き音
照るよりも夕日に映ゆる山もみじ心を染むる色にぞ思ふ 10.11.26
装へる山のうへより顔出して雲の帽子を被る由布が峰ね(故郷)
拾ひ持つ銀杏落ち葉の捨てがたく持ちて帰りぬ秋の形見に 10.11.29
日翳れば散らばり浮きし鴨の群れ集ひ寄り添ふ山陰の池(小野屋ダム)
初時雨慌てる人をはすに見て折り畳み傘を開くやすけさ 10.12.2
逃ぐるごと落ち葉にはかに走り出す冬将軍の風に乗りくる 10.12.4
北風に向かひて土手の路行けば耳につきくる鴨の鳴き声 10.12.6
わが前を走る落ち葉の輪を描き家路急げと風の背をおす 10.12.8
白妙の雪をいただく豊後富士姿あらため窓にをさまる(初冠雪) 10.12.9
街角にジングルベルの曲流れ枯葉輪となり回り駆けぬく 10.12.13
鴨の顔どれもあひ似て憂ひなしあやかりたきと思ふ年の瀬 10.12,31
年の瀬や川の流れも人の身も流れゆくのみ流れゆくのみ(親しき人々を亡くし)