短歌20
定年や後くるひとに追ひ抜かれ遅れつつゆく蒲公英の道(拾遺)
秋の風今年はいたく身にしみる心にぽっかり空く穴ありて(拾遺・追加)
豊後富士雲の衣を朱に染め日の出待つかな初春の空(元旦) 2011.1.1
新しき年の始めや豊後富士姿正して窓におさまる
葦蔭にかたまり集ふ鴨の群れ寒に入りたることの確かさ(小寒) 11.1.6
ゆく川の流れに浮ぶ泡哀し時の流れに浮ぶわが身も(徒然草を読み返し)11.1.8
初雪も午後のながめとなりにけり水仙の葉の撓みもどりぬ 11.1.9
日一日窓に眺めておもしろし次々変はる由布の峰雲 11.1.12
豊後富士雪の化粧を整へて雲の帽子を被る冬晴れ(由布の傘雲) 11.1.17
孫の名も忘れし父の覚えゐる旅の宿屋の女中の名かな(アルバム) 11.1.28
一羽鳩高き梢にきてとまり見上げをるなり雪になる空 11.1.30
二三声鳴きて黙せし寒鴉ここに居るぞとまたも告げをり
一二輪枝の先なる梅の花早く目覚めしごとく咲きをり(七瀬公園の梅) 11.1.31
春風のここちの良さよ帽子脱ぎ髪靡かせて土手の径ゆく(立春) 11.2.4
正直に春立つ山の霞みをり療養所の窓より見れば(父長期療養)
脚浸し葦の葉陰に立つ鷺のながく立つなり水温む池 11.2.5
忍びよる春の足音聞きつけて日に日に鴨の飛び去りてゆく(鴨帰る) 11.2.6
春くるもいまし名のみと思ふかな人俯きて土手の道ゆく 11.2.8
山路まだ春の遅るるところ有りところどころに残る積雪(長湯温泉郷) 11.2.13
春の雨髪を濡らすも心地よししばしは傘をささず行くかも 11・2.15
春の雨傘さし前をゆく少女時々傘を回し行くなり
道岐わかれ岐れ岐れてたどり着くわが古里や桃の花咲く(室小野) 11.2.18
桃の花荷台に積んで漕ぎ急ぐ自転車少女頬をほてらす
二羽の鴨群れを離れて葦の間に隠れゆくなり水温む池(改正)
梅の花鼻近づけて目つぶれば見ゆるがごとし天平の春(国分寺幻想)
諸鳥の翼光りて飛びゆくに春になりたる空と思へり 11.2.20
草土手に咲くタンポポの花一輪春の時計を少し動かす 11.2.23
春山路ところどころの寒ければ藪の椿の遅速をかしき 11.2.26
古里のわが家の庭の水仙花愛づる人なく剪る人もなし 11.2.28
道遂に湖畔の宿に近づけば招くがごとき水仙の花(回想・レイクサイドホテル)
永き日をただ立ち尽くす町角の電信柱の上の星空 11.3.1
タンポポの咲く道行けば足軽かろく老ひていよいよ子どものごとし 11.3.3
峠路や春見つけんと見渡せば一筋の河光り流るる(青少年の森への道)11.3.4
舞ひ降りし水辺の鷺は冠毛かむりげを吹かれ立つなり春風の中 11.3.7
春浅き海を眺めて立つふたり浪荒ければ肩固く組む(田ノ浦ビーチ)11.3.8
春の雲ふと懐かしき顔になり別れを告げて去りてゆくかな 11.3.9
初蝶を今年も見たる土手の道春の歩みの確かなるかな 11.3.15
初蝶も今日のニュースの一つにて病の母に告げ知らすかも(母入院)
大方は人も住まひも異なれど古さと人の心違はず(ある葬儀) 11.3.16
少林寺春を訪ねて来てみれば掃かれずにある落椿かな 11.3.21
道岐れわが古さとに向かふバスしばらく通る菜の花の中 11.3.22
菜の花やこのごろ見えぬ豊後富士霞の奥の奥にあるかな 11.3.25
春霞街を覆ひて昼深しビル屋上を蝶の飛ぶかな(屋上駐車場) 11.3.28
手をあげて横断歩道を渡る児のあとを蝶々の追ふてゆくかな(触目) 11.3.30
ふるさとの花の便りを待ちをれば携帯メールで届くスナップ
菜の花の咲き満つなかを通り来し一両列車黄色なるかな 11.3.31