短歌16
見渡せば花も紅葉も無けれども春立つ山の薄霞かな
二羽の鴨葦の茂みへ隠るるををかしと思ふ水温む池 10.2.5
どこまでも歩いてゐたきこの路やタンポポの花ハコベラの花 10.2.6
友遠く異郷にあれば出す文に一言書きぬ梅咲きたりと(Mに) 10.2.10
電線に音符のごとく留まりゐて小鳥らは歌ふ早春の譜を(訂正)
梅の花咲けば彼方の豊後富士雲の衣を着替へけるかな 10.2.12
見比べて心ひそかに肯けり紅梅白梅ともに宜しき(七瀬梅園・即興)
花よりも香ぞ懐かしき古里のわが家の庭の梅の老木は 10.2.13
道の辺の雪を被かづける石仏耐へて春待つ姿と思ふ(春雪) 10.2.15
春浅く風まだ寒き土手の道鴨の声など聴きつつ通る 10.2.18
鴨の群いつしか消えて春の雲ゆっくり動く湖の面
水仙の寒にあらがひ咲くを見てなにか悟れるごとく思ひぬ 10.2.19
やまみちは春の訪れ遅ければ藪の椿の咲きかけてをり(散策)
天地あめつちの春の姿の定まらず雪また纏ふ豊後富士かな(春雪) 10.2.20
<天地の春の意こころの定まらず又も降り積む峰の白雪>
花もまた香も慕はしき苑の梅暫し眺めて暫し眼つむる(七瀬梅園・改案)10.2.21
傘さして小学生の帰りをり赤青黄色春雨のなか 10.2.25
落ちてなほ容かたち崩さぬ花椿しばらく在るや庭苔の上 10.2.26
咲くよりも落つる椿となりにけり汚きまでに庭土の上
庭土に落ちて腐れる花椿死にゆく春の姿と思ふ
欄干に凭れてしばし覗くかな橋の下ゆく春の流れを
流れきて又ゆっくりと流れゆく空缶ひとつ春の旅する
行く路に見し蒲公英の一輪をまた確かむる帰り路かな
妻に告げ子にも語るや初蝶を見し昂ぶりを隠しえずして(改訂) 10.2.28
わが庭の梅に鶯つひに来て春を告ぐるや障子へだてて(初音)
春光へヘリコプターの舞ひ上がり軈て天地の間を漂ふ(久住高原遊覧) 10.3.1
春日落つその入り際の光輪に御座おはすがごとし南無阿弥陀仏 10.3.3
傘触れてチラと見る女ひと艶なるや横断歩道春雨のなか
わが前を赤き傘さし行く人をゆかしと思ふ春雨の道 10.3.4
梅散れば次に待たるる桜花いとど待たるる老ひのすさびに 10.3・5
桜花散る果敢なさを好しとせし昔の思ひ今は異なる(友の癌を憂いて)
春の川数多あまたの里を巡りきて海近ければ流れ急がず 10.3.6
白き鷺春の雨降るなかに佇つその濡れ姿眼まなこに残る(七瀬川) 10.3.7
廻り来し春を確かめ巡りゆく湖の径咲く黄水仙 (W・ワーズワウス頌) 10.3.8
山桜咲けば名もなき山なれど吾は山の子飽かず眺むる(桜3題) 10.3.9
見渡せば麓の桜咲き初めて山の桜の散るを急げる
ふる里や花は昔に変らねど花観る人の顔の異なる
ふるさとや前行く子等の手を繋ぐ吾あも繋ぎたし蒲公英の道 10・3.14
髪濡らし傘もささずに人の来る若さなるかな春雨の道 10.3.15
すみれ草岸辺に咲きて可憐なりやさしく撫づる湖の風(志高湖・早春)
妻も子も忘れ去りたるわが齢よはいわれのみ祝ふ吾が誕生日(64歳) 10.3.16
大方に秀才どちの果敢なけれ愚もまたよろし齢越えれば
遠き日もいと近くにぞ思はるる春の夕べにものを思へば 10.3.17
菜の花のなかを一筋流れゆく川の光りて春たけにけり 10・3・18
揚雲雀雲井に高く囀るを老ひを励ます声と聴きをり(初雲雀) 10.3.20
バンパーに留りて憩ふ蝶のあり峠に着きて車停めれば(狭霧台) 10・3.21