短歌15
目覚むればすでに来てゐる屋根雀昔変はらぬ故里の家
カーテンを引けば現る豊後富士帰りつきたる故里の家
色褪せし写真ばかりのアルバムを眺めてながき父の溜息
色褪せし女の写真貼りてあり母にはあらず父のアルバム 09.11・17
色褪せし女の写真貼られずに挟まりてをり父のアルバム
草枯れて出逢ふ人なきこの道や見知らぬ犬のついて来るかな 09・11・20
なつかしき学びの庭の銀杏の樹見上ぐる度に黄金を降らす
人通り絶えて寂しき夜の道を影と吾行く寒月のもと 09.11.25
手をつなぎ若き二人の歩みゆく銀杏並木の黄金の道 09.11.30
我が門の紅葉ももはや散り果てて窓に待たるる峰の白雪 09.12.4
昨日今日姿変はらぬ山なれど見飽かぬものぞ由布の高嶺は 09.12.6
いつしかに冬の流れと川なりて落ち葉一枚速く流るる(七瀬川) 09.12.7
軍服の写真ばかりのアルバムを炬燵で見入る父の此の頃 09.12.8
傘の上かすかに叩く雨の音聞きつつ急ぐ末うら枯れの道 09.12.10
日翳れば陽当たる方に飛びゆけり枯れ葦原の白鷺の群れ 09.12.16
出て見れば雲脱ぎすてし豊後富士真白き雪を峰に頂く(寒波襲来)
君来るをガムを噛みつつ待ちをれば並木の銀杏黄金を降らす(青春回顧)09.12.23
初春の空に揚がりて凧ひとつ豊後の富士と高さを競ふ(年賀状)
我が庭の枯木に残る一枚の枯葉も散りて冬も深まる 09.12.27
初春の漫ろに歩く土手の道見知らぬ人の会釈してゆく(元旦) 2010.1.1
老いの身の日々の日課の散歩道歩き始めと思ひつつ行く
初春の光りを纏ひ白き鷺高き空より舞ひ降りて来ぬ(七瀬川)
初春の国旗を掲ぐビル屋上旗のためとて風のあるなり(稙田タウン)
目出度さもほどほどなれど老ひぬれば長く浸かれる初湯よろしき
目出度しとひとは齢を寿ことほげど哀しと思ふ年取ることは(父92歳)
初春の光りを纏ひ庭に群る鳩も雀も争はずして 10.1.2
初晴れの空に聳えし由布嶽の峰の白雪光を放つ
藪陰にはやくも咲きし花椿可憐と思ふ一つ咲くゆゑ 10.1.6
春を待つ姿と思ふ白き鷺ながく佇む川中の岩 10.1.11
昼までをもたずに溶けし初雪のなほも残るや水仙の葉に(初雪) 10.1.13
久々の冬の晴れ間に眺むれば姿ぞまこと豊国の富士 10.1.17
出てみれば雪を頂く豊後富士暫し眺むる杖に凭れて(父)
昨日今日姿変らぬ山なれど今日見る山はまた今日の山(窓) 10.1.18
山河みな己が姿を整えてそれぞれ迎ふ新しき年(新年・追加) 10.1.21
春近し枯れ葦原の葦の間を流るる水のすでに囁く 10.1.22
春遅しまだまだ遠し空染むる力もなくて夕日落ちゆく 10.1.23
春雪の溶けてむなしき庭先に雪達磨あり水仙もたせ
見てをれば群れより離れ泳ぎゆく二羽の鴨あり水温む池(高尾池) 10.1.26
つれづれの漫ろ歩きに梅が香の漂ひきたり藪蔭の径 10.1.28
つれづれの日々の日課のわが散歩梅の香りに路を変へたり
ひとつ咲く藪の椿のまた咲きて近づく春の速さ知らるる
道の辺にはやタンポポの花咲けば通ひなれたる路の新し 10.1.29
いつしかに春の流れとなりぬらし耳の近くで川の囁く 10.1・31
タンポポの一輪咲くを見し日より飲む珈琲の芳しきかな 10.2.1
また戻る寒さのなかを帰りきて飲むコーヒーの温かさかな 10.2.2 初霞うすく纏ふや豊後富士冬の名残を峰に残して(立春) 10.2.4