詩59
ミケ───昨夜夢をみて
08.12.12
嘗て 我家にはミケという猫がいた
それは
ぼくがまだ幼かったとき
学校の帰りに拾った
捨て猫であった
ぼくはその子猫を
とても可愛がった
ぼくは寝るときはいつもミケを布団に入れ
猫がいないと探してまわった
ミケは次第に大きくなり
ぼくも成長していった
ぼくには妹が一人あり
妹も成長し美しくなっていった
両親も健在で
懸命にぼくらを養い育ててくれていた
この頃の我家は明るさに
満ちていた
やがて
ぼくは高校生に妹は中学生になったが
その頃であった
ぼくがミケの老いを感じはじめたのは
ミケは次第に動きが鈍くなり
一日中日向で動かずに寝ているという
ようなことが多くなった
その幸せそうな寝顔をみているのが
ぼくは好きであったが
一抹の不安を抱きはじめた
ミケは抱くと随分と軽くなり
抱く度にどんどん軽くなっていくように
思えた
やがて ミケはほとんど動くことがなくなり
抱いても目を閉じてただじっとしている
だけとなった
そして ある日
ミケは家を出て行ったきりに
帰って来なかった
ぼくはあちらこちらと探してまわり
床の下にも潜ってみたがーーー
その日からついにミケを目にすることはなかった
父は 「猫は死ぬときはそれを察して
自分から<猫の墓場>に赴いて
いくのだ」と語った
ぼくはもう成人に近くてそれをすぐに
信じるような年ではなかったが
でも不思議にその話は率直に
受け入れられた
そして 今でもそれを信じている
そして このことがぼくにとっての
初めての身近な死の経験
でもあった
ぼくは
自分の墓場に向かってトボトボと
暗い道を歩いていく
ミケの姿を今でも想像することがある
師走の喫茶店にて──スケッチ
09.1.5
師走の街角の小さな喫茶店
隣りの席で
一組の若い男女が
珈琲を飲んでいる
にこやかに会話を交わし
互いの目と目を見つめあい
一杯の珈琲に時間を注ぎ足しながら
ゆっくりといつまでも飲んでいる
世界中のどこにでもいるような
平凡な恋のカップル
だが
世界中の誰よりも幸せそうな顔
軈て
二人は席を立ち
ドアを押して
冷たい街に出て行くとーーー
すぐに
ウエートレスが
幸せな時間を片付けに
やって来る
コーヒーを飲みながら