短歌3
夏草の中にまします石仏目鼻なけれど顔の微笑む             06.6.21
白き雲人の形に似てをれば湧きくる慕情抑へがたしも
若者等シャツをも脱ぎて憩ひをり泉に近き緑の木陰
梅雨晴れ間カメラを持ちて吾の行く湖の径紫陽花の花
梅雨晴れ間湖畔の径を行きをれば吾に寄りくる大揚羽蝶
空港に向かふ人等のバス待てリ吾も飛びたし梅雨明けの空
菖蒲園花から花へ飛ぶ蝶の中の一つの妻につきゆく
夏がすみ覆ひ隠せる沖眺めいつまでも居る吾若きかも
吾が心慰めかねつ紫陽花の花も項うな垂る雨のふる日は            06.6.23
雨上がり遠く虹たつ土手の道傘畳まずにゆく人のあり             06.6.25
日一日書斎で過ごすつれづれに雀の言葉学びをるかも            06.6.28
時鳥姿も見えず鳴きをれば天より聞ゆ声かと思ふ                06.6.29
雨上がり水田の上にかかる虹田植え終へたる里の安けさ           06.7.3
雨上がり尚も傘さし児等帰る遠く虹たつ里中の道
カーテンの陰より見れば梅雨の月恥らふ如くすぐに隠るる
カーテンの隙間を漏るる月の影眠れる妻の顔を照らせる
梅雨深く空き地に生ふる雑草の伸び蔓延れる命逞し              06.7.7
五月雨に溢れ渦巻く濁流を映画のシーンのごとく見るかな
病室の窓より見ゆる丘の上吾を待ちゐる大き樟の樹
恋なき手つないで児等の帰りゆく蒲公英の花咲きし村道
ネクタイを外して芝に寝ころべば顔の上まで降りてくる雲
水上の苔むす池に湧く清水掬ひて遠き海を思へり <男池>
珈琲を飲まんと匙でかき回す五月雨の降る午後のつれづれ          06.7.11
梅雨明けの空に舞ひたつ鳩の群れ朝日の方に飛んで行くかも
子ども等の消えし真昼の公園に影濃く立てる向日葵の花
蓮の池渡れと橋のかかりたる渡れば暫し浮き世を離る              06.7.19
天を向き開く数多の蓮の花眺めて暫し浮き世を忘る
みずすまし頻りに廻る池の面乱れ整ふ蓮の花影
蓮の花浮き世の外に眺むれば西方浄土見えてくるかも
世の平和乱す出来事愁ひつつすでに冷めたる珈琲を飲む             06.7.21
戦ひで家を焼かるるニュースシーン映画のシーンのごとく見てをり
一冊の本を手にして向かふ丘樟の大樹の吾を待ちをり
時鳥声聞くときぞ思はるる故里のこと父母のこと
雨上がり舗道に残る潦にわたずみエイと跳び越え吾まだ若き
雨上がり露のまだ干ぬ土手の上蝶の飛びをり早くもあるか
水尾長く引いて出で行く外国船見えずなりても妻は見てをり
梅雨あけて姿を見せし豊後富士雲の帽子を粋に被れり                06.7.28
梅雨あけてもの皆纏ふ日の光最も纏ふ向日葵の花
屋上に上れば見ゆる碧い海この頃吾の来ること多し
屋上に上りて仰ぐ空の青眼鏡を拭いて見れば眼に沁む
屋上に上りて仰ぐ青空にふと故里の空を思へり
いにしへも今も変わらぬ親ごころ憶良の歌にわが子思はる             06.7.29
蓮の花心すなほに眺むれば極楽浄土遠くて近し                    06.8.2
阿弥陀仏心すなほに唱へれば極楽浄土遠くて近し
電線に止まりて憩ふ一羽鳩群れはぐれしか逃れて来しか
蝉の声聞きつつ家に転びをり子の夏休み我が夏休み  (回想)

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