短歌1
雨あがり草の葉っぱに置く露のどの一粒も宿す太陽
太刀佩いて眺めし人を偲ぶかな朝日に匂ふ山桜花                 06.3.31
散る花の下で繙く文庫本吾が青春を読み返さんと                  06.4.6 
チューリップの花咲くところベンチあり座れば時間ゆるやかに流る        06.4.22
向日葵の花を飾れる店に入りアルル想へり造花なれども             06.4.23
ゆく春を惜しまんとして来し岬吾より先に来れる人あり                06.4.30
リピートにてエーデルワイス返し聴く春の終はりを惜しみ惜しみて
世界地図とりて看てゐる人のありゴールデンウィーク前の図書館
見るよりもむしろ見らるるごときなりモナ・リザの絵を眺めてをれば
窓若葉臨時雇ひの事務の娘の手を措くときの遠き眼差し             06.5.4
由布の峰雲の帽子を被りをり五月の朝の窓を開くれば               06.5.5
ビートルズカーステレオにかけ走る湾岸道路いつも青春
初夏の風を入れんと開けし窓連絡船の近づくが見ゆ
水尾(みお)白く引いて出で行く連絡船見えなくなりて汽笛を鳴らす
鳥一羽雲なき空をよぎりたるただそれだけの窓の出来事
今日よりは夏の流れとなりにけり一夜で遂げし川の変身
病室の窓より見ゆる遠き山その名も知らぬ遠山恋し
何処からとなく現れし揚羽蝶吾が前を行く案内(あない)するごと           06.5.7 
藪椿落ちつく所得たるごと石の仏の膝に載りゐる
花の歌詠まんと来しが歌ならず歌ならずとも花の微笑む               06.5.8
藤の花静かに垂れて声もなし逢魔(あふま)が時となりもていけり           06.5.11
日の暮れは皆声優し花菖蒲咲ける辺りの水のささやき           
玻璃窓に飛び来て枠に止まる蝶空に止まれるごとくにぞ見ゆ           06.5.15
ポピー咲く花園の路日傘差し若き婦人ののろく歩めり
空と海青さを競ふ夏来たり白きかもめのいよいよ白し
初夏の雲湧く海に漕ぎ出でしボートの一つ沖に向へり
湖に浮く白鳥を眺めつつ夢紡ぎをり若き二人は
餌をもとめ岸に漕ぎくる白鳥の翼の汚れ近づけば見ゆ
しば鳴ける郭公鳥の声聴けば何かを問はれゐるがごとしも
晴れも佳し雨もまた佳し花あやめ八つ橋渡る日傘雨傘               06.5.16
五月尽パンとミルクの食事終へ見入るテレビに海の誘惑
日傘差しアルルの女渡る橋今もあるらし渡りてみたき
渓深くしばしば鳴ける老鶯の呼ぶ声つひに狂へるごとし
雨に来てひとり眺むる大牡丹雨の風情は知る人ぞ知る
牡丹苑(その)若き婦人の差す日傘漂ふごとく動いていけり              06.5.19
初夏の窓に湧き立つ雲見れば父母のこと思ほゆるかも
家族して八つ橋渡る菖蒲池旅にし勝るかかる喜び
初夏の海透く大きガラス窓招くがごとく鴎近づく
病上がり土手の道行く吾が前を白き蝶とび黄なる蝶とぶ
あやめ池空行く雲の写りをり心にはかに旅をおもへる
暮れてなほあやめの池の水車止まず廻るを月ぞ照らせる
風薫る並木の路を来る女足取り軽くラケットを持ち                  06.5.21
南風に髪なびかせて女立つその背に大き海を従へ
夏来れば肌もあらはな女たち海の匂ひを漂はせ行く
葉桜の風に騒ぐを聴きをれば故だも知らず心騒げる
睡蓮の池を久しく見てをれば時々刻々に変はる花影
月の出を心に思ひ待ちをれば開くを待ちて睡蓮のあり  <少林寺>      06.5.22

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