詩5
市美術館
2004.8.15
市の美術館を訪れた
それは小高い岡の上にある
モダンな建物で
中に入ると
いくつもの展示室があった
次々に観て廻り
一通り観終わると
最後に作品のない一室に着いた
そこには大きなガラス窓だけがあった
暫く休憩し
眺めていると
その大きなガラスの窓からは
空が入り
空に浮かぶ雲が入り
山々や峰が入り
眼下の街が入り
遠くの海が入り
その海の向こうの
見えない国も入ってきた
故郷
2004.9.20
少年は
近くを流れる小川に
よく笹舟を浮かべた
笹舟は遥か街の方角に
流れにのって去っていった
他郷での長い生活の果て
年老いた少年は
また故郷に帰り
昔、よく遊んだ小川に
今度は
桃の花を浮かべた
桃の花びらは
笹舟が去った方角に
杳然と流れていった
龍仙峡
2004.8.20
険しい山道を下り
渓流を遡っていくと
突如目の前に
一條の瀧が現れた
瀧は虹を掛け
飛沫は軽霞を散じていた
飛流直下三千尺
には遠く及ばないが
数十メートルの落下は
景観を楽しむに十分であった
滝壷まで近づき
塵顔を洗うと
俗世間は遠く去り
心はのびやかになった
現れては落ち
現れては落ちる水を
無心に眺めていると
いつしか巌が上りだし
自分の身体も浮上し始めた
羽化登仙を想い
天を仰ぎ
瀧を登る龍の姿を空想し
龍が潜んでいそうな
碧い滝壷に
徐に目を戻すと
水泡の沸く辺りに
コカコーラの空缶が一つ
浮いていた
海4
毀れそうな
蝶が来て閉じる
海の記憶