詩6

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    ある田舎町
               2004.8.28
ある田舎町を訪れ
小さな喫茶店に入った
何時ものように席を窓際に取り
ゆっくり珈琲を呑みながら
見覚えのある
静かな通りをぼんやり眺めていた
窓々には初夏の雲が映え
並木は影を縮め
日傘を差した婦人が
汗を拭きながらそれでも快活に
やってくるのが目に入った
日覆を掠め
手をつないだアベックが
すぐ目の前を笑いながら過ぎ
犬を連れた老人がゆっくり歩いてきて
立ち木の前でたちどまった
子どもを連れた夫婦がはしゃぎながら
止まった車の前を急いでよぎり
お辞儀をするのが見え
少し危なげに自転車が角を曲がって消え
リボンをつけた少女が
足取りも軽く通り過ぎていった
午後の陽は家々の屋根に照り
入道雲がわずかに顔を覗かせていた
なべて平穏で
この町に住む人は誰もが愁い無げに
見えた
ーーー確かにそうだ!
その昔、この町に住んでいた時分
あの頃の自分には何の愁いもなかった

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    空4
               2004.9.4
晴れた日
小高い丘に上って
草に寝転び耳を澄ますと
聞こえる
いろいろな調べ

近くを潺々と流れる
小川の軽やかな響き
突如起こる風のフォルテ
木の葉のさやぎ
小鳥たちの合唱
眠気を誘うミツバチの甘美な羽音
遠い潮騒の音も
かすかに聞こえてくる
ーーーどの調べも美しい

しかし
晴れた日
丘の一隅に立ち
青い空を見上げ
両手を大きく広げて聴く
天上の調べ
その聞こえない調べは
聞こえるどの調べよりも
美しい

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