詩7
       
              2004.9.4
予報どおりやって来て
嵐は激しく扉を叩く
家の中では
若い母親が乳飲み子をしっかり
抱きしめる
嵐は咆哮し木々を揺さぶり威嚇し
さらに激しく戸を叩き続ける
子どもたちは
見えない怪物の姿に怯え
父親は出陣の出で立ちで
身構えて出番を待つ
老人は
一心に神仏に祈り続け
人々は為す術もなく
ただ時の過ぎ行くをじっと待つ
嵐は木々をなぎ倒し
果実を投げ散らし
田畑を踏み荒らし
狼藉の限りを尽くし十分に満足して
やがて立ち去ると
空はもとの空を取り戻し
藍を深め
太陽は何もなかったかのように
雲の間よりにこにこと顔を出す
人々はいつものように挨拶を交わし
遠い記憶を呼び起こし
何かを学び
また明日に向けて一歩を踏み出す
       乳母車
                 2004.9.25
乳母車を捨てることにした
初孫の祝いに義母が買ってくれ
玄関の隅に
いつも飾ってあった乳母車
いつの間にか子は育ち
とうに不用になっても
いつまでも玄関の片隅に
埃を被って置かれてあった乳母車
過ぎし日が滞り
あどけない寝顔が残り
無邪気な笑顔が浮かび
捨てきれずにいたのを
思春期を向かえ
反抗期に入った
一人息子が
「邪魔だ」というので
ある暑い夏の日
入道雲が見下ろすなか
市のごみ処理場の
ごみの山に
思い出とともに
捨てて帰ると
わが家には
もう何処にも子どもはいなかった
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