詩8
白鷺
2004.10.5
川の真中に
一つ突き出た大石
いつも来て立つ
一羽の白鷺
身じろがず水面を見据え
じっと立ち続ける
いつまでもいつまでも
時間を止めて
さて
時は晩夏
立ち続ける白鷺の上には
夏の日が
燦々と輝いているが
水面を見据える
その立ち姿は
すでに秋意
帰郷
2004.10.11
「放蕩息子の帰還」の譬え宜しく
久しぶりに故郷(くに)に帰った
息子を
父母は 満面の笑みで
出迎え 祝った
ほんの短い 滞在の後
長の年月
親不孝の限りを尽くしてきた
息子は
思い出だけを鞄に詰め
報いることもなしに
また
慌しく故郷を去っていく
ふり向くと 車の後ろ
風に揺れるコスモスの彼方に
いつまでも いつまでも 手を振る
老いた父母の姿が まだ見え
その姿は
遠ざかっても
小さくならなかった
名月
2004.10.23
中秋の名月 と聞き
久しく忘れ去っていた
風流心をよびさまし
近くの空き地で採ってきた
芒を一本 コップに活け
酒も用意して
月見をしゃれ込んだ
安アパートの二階
窓を開け ベランダに出て
遠く 近く 明滅する
夜毎のネオンを眺めながら
東の方角
競い建つビルの上に出る
今宵の月を想い 待った
遥か 故郷の月にも想いを馳せ
ひとり酒を酌みながら
高層ビルの狭間より上ってくる
筈の 名月を待ったが
なかなか
月は姿を見せなかった
待ちきれず
空き地に出てみると
名月は電線に
引っかかっていた
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