「小都抄」以後
観音と向合ふばかり蝉涼し
ちぎれゆく雲の行方や窓の秋
着地まで日当たりながら舞ふ落ち葉
廃校の隠れずありぬ冬木立(母校・東庄内小学校)
電線や枝に戻らぬ寒鴉
本に置く老眼鏡や去年今年
春近し膨らみ動く窓の雲
梅が香や甍の上の豊後富士
石積める砦の址や山桜
若草やパン覗かせてパン袋
この道や一人になりて蝶が友
少林寺掃きたる跡の落ち椿
菜の花や車窓近づく豊後富士
花舞ふやお城祭りの髷の上
春眠の子の抱きしむる枕かな
春宵やスプーンの触るる皿の音
唱和する女滝男滝や山笑ふ
一瀑に向くるレンズや山笑ふ
万緑や瀧引き寄する双眼鏡
葉桜や急になりたる岡の道
ゆっくりと包める闇や白牡丹
緋牡丹や風きて天に蝶帰す
出でて来ぬ若き二人や薔薇の園
暮れ初めて煌く水や花菖蒲
見上げたる位置に月光藤の花
風を切る自転車一台青葉坂
濃くなりし娘の化粧罌粟の花
藤の花この頃妻の厚化粧
飲みほして透けるコップや夏来る
空山の返すこだまや時鳥
虹立つや湖上逃げゆく雨の脚
ふふむより瞳澄みゆく泉かな
観音と向き合いをれば蝉涼し
吊るし柿今年は早し峰の雪
初晴れや窓に収まる豊後富士
初晴れや一つの枝に鳩すずめ
代々の一重瞼や初鏡
響きよき父の拍手初日の出
秋霜の何処より来る初鏡
身をまかす時の流れや去年今年
つけ過ぎし顔のシャボンや年新た
ゆく春やグラスに注ぐ赤き酒
石に立つ石のお地蔵冬来る
山下星吾
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春浅し雪を手にする辻地蔵 2006.4
綱つけて駆けてくる犬春の風
春宵やコーヒー茶碗に金の縁
懐にまだある返事春の暮
花の雨ゴム靴大き一年生
草萌ゆる子犬の脚のいそがしく
葉桜や時間の流れもとどうり
蝶のデート人のデートやチューリップ
チューリップ園児恋なき手をつなぎ
立つ鷺のいつまで立つや春の暮
チューリップ座れる人を待つベンチ
落ち椿落ちて落ち着く苔の上
落ち落ちてここだ落ちをり落ち椿
案内の蝶の現れ岡城址
チューリップ巡れば戻る園の路<久住花公園>
苜蓿摘んでしまいし妻の夢
霞む日や見えねど眺む阿蘇の方
水に顔浸ける白鳥弥生尽
ゆく春や山の合間に見ゆる海
ゆく春やギターの弦の弾き過ぎ
ゆく春や余計につけし髪油
春惜しむ毛の美しき犬抱いて
噴煙や蝶々荒らし外輪山
草原の主役交代揚羽蝶
窓若葉本に置きたる老眼鏡
てくてくと此の道行くや秋の雲
大年の星を飾るや里の空
古里や障子の影の初雀 20年元旦 2008
初蝶や急がずにゆく土手の道
蝶々に尾を振る犬や土手の道
睡蓮や池に架けたる橋の反り
春塵や広がり止まぬ都市砂漠(拾遺)
南風や傾き進むヨットの帆
乗り心地よき枝選び初雀 21年元旦 2009
新しき石鹸持ちて初湯かな
老ひの掌に力のこもる初詣
晩涼の草にまだある暑さかな
ふる里もすでに異郷や曼珠沙華(訂正)
傘の中ふっと一人や秋の雨
終戦か将敗戦か蝉暑し 10.8.15
ややながき蝶々の憩ひ夏薊 10.8.25
春風や赤子這わする草の上 11.2.27
蝶々と門を潜るや牡丹寺 11.5.1