短歌23
蝶の翅もげて浮かべる水潦みづたまり空の映れり秋雨の後 11.11.11
<蝶一頭墜ちて浮かべる水潦みづたまり雷雨の後の空を映せり>
いつしかに冬の流れと川なりて落ち葉一枚速く流るる(七瀬川) 11.11.14
コスモスの花咲く道を漕ぎ急ぐ自転車少女の脚の健やか
日一日眺めて飽かぬ由布の峰雲の帽子を次々に変ふ
今日の由布昨日の由布と変はらねど今日見る由布はまた今日の由布(窓)
一陣の風舞ひ上ぐる銀杏の葉今年の秋のフィナーレかな
釣の糸垂らす人影減りゆきて日に日に鴨の増ゆる溜池(高尾池)
ゆく秋に抗ふごとく枝の柿名残を惜しみ数顆を残す 11.11.15
散り急ぐ銀杏並木の落ち葉道風吹きゆけば時の輝く
ゆく秋の夜空の星の多ければ父母の星探しかねつも 11.11.21
傘させど心を濡らす秋の雨ひとりの歩みうら枯れの道 11.11.22
飛ぶ鳥も獣のごとく争ふを雲居に見たり冬の初めに 11.11.23
カサカサと落ち葉声だすこの冬の寒さ厳しさ語れるごとし 11.11.25
見上ぐれば空の広さの憎まるる煙となりて消えし父母
父母の煙となりて上りたる空見上ぐるも空は広かり
山茶花の垣根に花を咲かしめて住める夫婦の門を閉ざせる(喪中) 11.11.26
かにかくに傘頼もしき初時雨濡れゆく人を横目で見つつ 11.11.27
蝋燭の火影にゆるる父母の遺影遺影といまも思へず 11.11.28
花のごと開くあまたの傘の下おのおの独り秋雨の街 11.11.30
濡れ落ち葉踏みつけ行けば骨のごと並木濡れ立つ秋雨の中
秋雨のあとに出来たる水溜り紅葉を浮かべ月影浮かべ 11.12.3
冬の川ただ音たてて流れゆくあまりに寂し何か流さん 11.12.5
銀杏散る並木の道を来る人の小脇にはさむ文庫本かな 11.12.7
往く先に幻の城あるごとし銀杏並木の黄金の道
日一日鳥も飛び来ぬ屋根の上圧するごとき冬の雲浮く 11.12.11
父母の煙となりて消えし空ああ悲しもよ二羽の鳥ゆく 11.12.13
地に落ちて落ち葉次々うつ伏せる終つひの憩ひを得たといふごと 11.12.15
父母のゐますがごとき寒灯下居間に敷かれし座布団の位置
夕焼けの映る川面を連れ立ちて葦辺に向かふ二羽の鴨あり 11.12.20
聖夜祭の飾り終えたる窓の外サンタクロースバイクにて行く 11.12.22
歩み来し道異なれど老ひの顔額に刻む皺は似るかな 11.12.24
山茶花の花咲き満ちてこの年の冬を迎ふる心定まる 11.12.25
(吾が庭の山茶花の花咲き初めて窓に待たるる峰の白雪 旧作)
石たたき石に飛びきて石たたくこの平凡を今日は愛せり
百八の鐘も消し得ず父母の命あらばと思ふ煩悩 11.12.31
父母の笑顔目に見え涙ぐむテレビ画面の初笑ひにも 20012.1.1
父母のゐなくなりたる家の窓今年も赤し南天の実は
初春のめでたき空に凧あがり豊後の富士と高さ競へる
初春の空にあがりし凧の数数へつつ行く土手の道かな
ふと吾の姿卑しく思はるる大き門にて犬に吠えられ
正月も三日を過ぎしころほひに目を楽します春の雪かな(初雪) 12.1.4
見飽きたるテレビを離れ眺むれば目を楽します春の雪かな
冬枯れの流れに向けて石を投げ遊ぶ児のあり春遠からじ 12.1.7
現れし石こそよけれ手をとりて親子の渡る冬枯れの川 12.1.12