花の山旅の筈だった水無月のくじゅう二題           栗秋和彦

 手っ取り早く九重の前衛峰を登り、宿泊バーベキュー大会でウツツを抜かしたの巻

 恒例のくじゅう山開きが開催される6月最初の週末は、周辺の宿も一年で一番の書き入れ時であろう。それを承知の上で星生倶楽部一泊を所望していたところ、高瀬兄のツテで思いがけずもゲットできることとなった。となると初夏の高原リゾートでの温泉三昧やバーベキュー大宴会など、非日常的癒し享楽生活が現実のものとなる訳で、久しぶりの九重に大いに心は躍った。しかしメインはこれであっても、花のこの時期、山も登らずミヤマキリシマも愛でずでは、おゆぴにすとの看板を揚げている?身としては何とも体裁が悪いし、美味いビールを飲むお膳立てとしても不可欠であろう。

 そこで門司のU姐を誘って三俣の前衛峰の指山を登ることとしたが、午後2時過ぎの長者原入りとなってはスケジュール的にもこの山ぐらいしか思い浮かばなかったのだ。おっとしかし指山そのものの品格を蔑もうなどと言うつもりはサラサラない。短時間で効率良く高度を稼げて、飯田高原や黒岩〜泉水、涌蓋山など九重北面の眺望を欲しいままにできる展望台としての秀逸さ。一方で背後の三俣山北峰に突き上げる急峻な支稜と涸沢を目前に見上げては、荒々しき三俣の意外性を改めて確認できるのも魅力のひとつであって、ここくじゅう一帯でもとびっきりの景観を提供してくれる山なのである。

      
                指山頂上台地から荒々しき三俣北峰を仰ぐ            指山の頂にてツーショット

と前置きはこのくらい。慌ただしく出立の準備をして硫黄林道へ入り、自然観察路への分岐までは12.3分。この間、すがもり越方面から下山の途につく中高年輩とは切れ目なくすれ違うこととなり、膨大な数の登山者が早朝から登っていた証を見せ付けられたが、これはまるで潮の満ち引きに合わせて移動するザリガニの如き習性かな? しかし自然観察路へ取り、樹海の森へ入ると、途端に静かな山歩きが楽しめ気分は上々。リョウブやカエデなどの繁茂する森はたぶんフィトンチッドたっぷりの筈だし、カッコウ?のさえずりを聴きながらの登山、これ以上のシチュエーションはなかろう。 で分岐(「指山」の道標)からは徐々に傾斜がきつくなり、樹海を抜け出すころから一気に急登となったが、例年ならばこのあたりから見ごろとなったミヤマキリシマやドウダンツツジが散見される筈であって、まぁ確かにチラホラとはあったんです。しかしその殆どは開花させるべきつぼみすらない状態では、指山一帯における今年の花絨毯への期待は萎むしかなかったのだ。ならば視点を変えよう。初夏の瑞々しい緑ならふんだんにあって尽きることもないので、山頂では割り切って、緑々の眺望を楽しんだが、これって冬枯れの時期以外はいつでも可能なので、多少の虚しさは残るんであります。

 まぁそれでも山頂台地一帯を探索すると、申し訳程度であったが、東斜面や三俣北峰とのコル付近に開花群落が認められたので、ヨシとしたい。こんなちょっとした群落でも精一杯花を咲かせている努力?が愛しいではないか。

 さて宿に戻ったのは計ったように午後5時ちょうど。風呂上りの愛しのバーベキュー大宴会突入までを逆算するとほぼベストなタイムスケジュールとあって、頬は緩みっぱなし。既に到着していた高瀬兄には今宵の食材いっさいがっさいの調達はもとより、宿泊の手配や宴会準備などなど雑事全般を担っていただき感謝するのみ。一方、門司からの遠来組(U姐&O嬢)も、バーベキュー用にと地元で調達した大ぶりの鮎や肉厚の剣崎イカを大量に持参して鼻息荒く、負けて?はいなかったのだ。う〜む、客観情勢はことごとく完璧に移行しつつあり、時は経ち夜のとばりが降りてしまっても、宴席は更にディープに嵌ってしまうのでないか、そんな予感濃厚の初夏の宵であった。

     
           星生倶楽部でのバーベキューシーン2題                               翌4日、一目山へひと登り

(コースタイム)

6/3 長者原14:33→自然観察路への分岐14:46→指山への道標14:57→指山15:26 56 →自然観察路への分岐16:31→(長者原経由)→星生倶楽部 17:00  星生温泉入湯(星生倶楽部露天)

6/4 一目山登山口(九重森林スキー場手前の峠)9:45→一目山10:00 09→(みそこぶし山方面散策)→登山口10:40  参加者 高瀬、栗秋、西梓、他2名(門司のU姐&O嬢) ※6/3指山及び6/4一目山登山は栗秋、U姐のみ

                                                 (平成18634日)

 

 人の群れに抗しながら九重山塊5峰をドタバタと巡ったの巻

登山という一点に絞れば、先週のくじゅうは消化不良気味であったが、花(ミヤマキリシマ)も不作とあっては、これで(今シーズンの花の山旅は)終わりだな、が率直な感想であった。もっともあまりにも昨年が艶やかすぎて比べられる今年はつらいぜ、とくじゅうの山の精霊たちは申しているのかもしれない。

 で終わったかに見えた今シーズンの花?のくじゅう。しかし唐突に週末前夜、会社の山仲間 T兄から誘いがかかった。ムム...この日は既に家庭内の約束事があり即答は避けたが、心は一気にくじゅうへ。花への未練が動かせたのか、次の瞬間には「行きたい!行きますとも!」と激情に身を委ねていたのだった。もちろん(家庭内の方は)反故にしてもカミさんの圧力はそれほど強くはなかろうと踏んだ上での決断であったが、なかなかこれが手強かったことを後で思い知ることになった。(悪いのは誘ったT兄です!)

        
       強心臓で獲得した駐車スペース                     久住別れを天狗ケ城方面へ登る

さて花も嵐も踏み越えてやって来ましたくじゅうは牧の戸峠。扇ケ鼻と久住山を目指してのアプローチだったが、峠に近づくにつれ異様な車の多さに、先ずは駐車の心配からせねばならなかった。2年前のこの時期、指山〜三俣山へ繋いだ際、長者原に早朝6時50分に着いても留められなかった記憶が甦り、今回もある程度は予想していたつもりだ。しかし日帰り登山で午前8時過ぎの峠着なら何とかなるじゃろ!がショージキなところ。それが峠の前後1〜2kまでは路肩に駐車した車の列で溢れかえっていて、まともに駐車しようと思えば、更に下ってヘアピンカーブ下の旧料金所のスペースまで戻らなければ難しいとは。ムムム...約束?が違うぞ!と言っても始まらないか。ならばどっか隙間はないかいな?と淡い期待を抱きつつ、ジワジワと上り詰めるのは人情であります。あぁ、そしてついに峠の駐車場へ入り込んで天を仰いだのだった。

 しかしこの期に及んでもT兄は泰然と構えていて逼迫感がまるでないのだ。これは何かよからぬことを考えているに違いない、秘策を申せ!と迫ったところ、奥の手を披露したのだった。つまりは彼の知り合いが峠の茶屋の主人と姻戚関係にあり、そのツテで唐突に頼み込んで了承を得ようというもの。そしてその強心臓で何なく目的を果たしたのだった。ならば寸分の隙間なく駐車した駐車場を突っ切り、茶屋への登り口の鎖を外して坂をゆるゆると上りまする(筆者は既に周りの視線が気になってオロオロの体)。そして茶屋前のベンチにたむろする大勢の登山者たちの非難轟々の視線にも耐えながら、茶屋横のスペースに置くことができたのだ。少しの?(相当の)厚かましさと、人脈?に恵まれた結果と言えなくもないが、それほどこの時期のくじゅう(特に牧の戸からの登山者)は多いということか。まぁしかしこれでこの登山は成功したのも同然でしたね(と言うような難しいものではないけど...)。

  
      天狗ケ城から星生山と中央に涌蓋山を遠望する                       愉しきひとときは昼食小宴会

 さてのっけの登山道も人の多さは織り込み済みであったが、沓掛山付近の狭隘一本道ではなかなか前へ進めず、もどかしさでイライラ感は募るんであります。おっと山に来てストレスが溜まれば本末転倒だが、まぁ、ここは慌てず人の流れに身を任せよ、ということだろう。

で出立して丁度1時間で扇ケ鼻着。高曇りで空気はヒンヤリ、立ち止まると涼し過ぎるぐらいで、登山には申し分のない今日の外気は、この時刻はるか遠望する祖母・傾連峰の大障子尾根を蠢いているであろう挟間兄にとっても千載一遇の願ってもない気象条件だったに違いない。そぅ、秘密裏のうちに本日未明に出発し、日帰り祖母・傾連峰完全縦走プログラムを遂行中の彼を偶然にも捕捉してしまった(※1)以上、是非この天候を見方に付け完遂して欲しいし、目の前、遮るもののない彼の尾根を見据えつつ、エールを送らずにはおれなかった。もちろん同行のT&M兄には知る由もないことだが...。

 一方、我が関心事のミヤマキリシマの群落はことごとく虫にやられて観賞には耐えられなかったし、視界に入るのはハイカーたちのハナバナ(鼻々)ばかりで、(扇ケ)鼻との相関性大いに有り!と笑えぬ冗談が空しかったね。

   
     稲星山から久住高原を             星生山直下より硫黄山噴煙と三俣山                星生山から由布遠望

そんなこんなで次なる久住山へは人の多さに嫌気がさして、自然と足は天狗ケ城へと向かってしまったが、こっちの方は先客わずかで、気兼ねなく周りの峰々を見渡せて静かな頂を満喫できたのだ。であれば必然的に次は中岳〜稲星山へと取って、裏街道を突き進んだが、比較的静かなピーク巡りに興じた後は背後から本命・久住山を攻め、更に久住別れをスクランブルに横断して星生山経由で牧の戸へと降り立ったのだ。この間、中岳〜稲星山のコルでの大休止(昼食小宴会)を含め、所要6時間20分、実質行動時間4時間15分の山上漫歩は、扇ケ鼻以降も殆ど艶やかな花園を愛でることもなく、織り込み済みとはいえ物足りなさばかりが残った。しかしエクササイズの面から捉えると、昼食小宴会で休止したひとときを除けば、けっこうハイペースを保ち、各々の心肺能力向上には大いに寄与したものと思っている。その証拠に、さしものT兄も行動中はいたっておとなしく(しゃべる余裕がなかった?)、夕刻、帰福後の打上げでようやく本性を現し饒舌になったのだから。その意味で駐車場交渉の際の強心臓と心肺能力の高さに、さしたる相関はなかったことが判明した訳だが、これは全くの余談でありますね。

  
               星生山にて いささか疲れました?                 帰途、玖珠は筆者ご用達の椿温泉にてまったりの図

(※1)チャレンジ!祖母傾連峰完全縦走その7 リベンジ成る」の文中、以下のくだりを紹介しておこう。

「先ほど前障子岩で栗秋から携帯電話(以下ケイタイ)にメールが入っていた。職場の仲間とこれから九重登山だそうだ。のんびりとした草原漫歩のゆとり山行が想像される。今日のこの試みのまっただ中にあることを返信すると「武運長久を祈る」とのエールが帰ってきた。これで今日の試みは衆人環視下(といっても2、3人だけど)注視されることになった。前回も含め本音はこの企てをさりげなく完遂したいとの思いであったのだが・・・。」

(コースタイム)
6/10 牧の戸峠8:43→扇ケ鼻直下分岐 9:30 32→扇ケ鼻 9:42 53→久住別れ10:23→天狗ケ城10:43 50 →中岳11:00 04→稲星山とのコル 11:13(昼食小宴会)12:25→稲星山 12:36 45 →久住山13:10 20→星生山14:03 10→牧の戸峠15:07  帰途、玖珠町椿温泉入湯   同行者 会社の同僚2名(T&M兄)

                 (平成18610日)

              おゆぴにすとトップページへ        大分の山目次へ