G.Wのアウトドア第一弾!、津江山系は 釈迦ガ岳〜御前岳縦走 の記  
                                                  栗秋和彦

会社の同僚、M君の案内で津江山系は釈迦・御前を目指した。釈迦岳(1230m)は前津江村(現日田市)の椿ケ鼻から過去幾度となく登っているので物珍しさはないが、西へ延びる趣のある縦走路と、その先のピラミダルな容姿で登山者を誘う御前岳(1209m)はいまだ未踏であり、機会があれば是非登りたいと思っていた意中の山だ。もちろん大分100山のひとつであり、それも食指が動く理由のひとつになろう。

で今回はこの山系を福岡県側から登ろうと企てた。県境のこの両山は福岡県では最高峰と2番目の高さを誇り、矢部村の杣(そま)の里渓流公園(登山口)から窺うと深山幽谷の趣なのだ。またここからだと、登山ルートがちょうど逆三角形をなぞるようになり、往復同じルートを取ることもなく出発点へ戻ることができ、変化に富んだ効率的な縦走が可能となる。

  
            コース略図                                御前岳の頂にて矢部の山並を背景に

快晴の下、先ずは未踏の御前岳を目指した。登山口の斜面にはシャクナゲがチラホラ散見され、花は満開。この山系にはこの花がウリだよ、と遠慮がちに訴えているようにも取れるが、いかんせん植生の密度が足りず、迫力はない。それよりもみずみずしい山全体を覆う新緑の方が秀でているし、雑事に追われなまった身体も緑々の世界に投じると活き返るようで、こりゃ精神衛生上も好ましいわぃ、と一人ほくそ笑むんでありますね。

 で沢に沿ってじわじわと高みへと導かれ、鬱蒼とした森を詰める。2.3回徒渉しても沢筋とはつかず離れずといったあんばいで、沢音が心地いい。一汗かいたところで林道に出くわすと、途端に周りは明るくなり沢筋から抜け出たのが分かった。ここは林道に沿って100mほど西進し、道標に導かれて上部の杉林へ分け入る。ジグザグ登りを経て支尾根に取り付くと、樹木越しに望む対岸の矢部の山々(の稜線)と同じ目線になってきて、高度を稼いできた証が見えてくるのであります。もちろん気分は上々、登山の醍醐味、或いは高みへの臨場感に浸るひとときでもあるのだ。

             
    縦走路から見た釈迦ガ岳(本釈迦と普賢岳)        快適な縦走路を行く        稜線のシャクナゲはまだつぼみ

さてこの支尾根も上へ行くにしたがって、岩稜と草付きのミックスした登りとなり、上部を窺うと稜線も近くなっていることが分かり、気ははやる。また一段とツガやブナ、リョウブなどの自然林が多くなり、急登に耐えつつも、この植生を愛でる価値は充分、目が離せないのだ。

  そして登山口から1時間強で最後の草付きを登るとフッと天が抜け、烈風吹きすさぶ御前岳の頂へ踊り出たのだ。(時間的に)意外にあっけない山頂であったが、強風に慌てて帽子をザックにしまう始末。しかしその割には春霞か?視界はきかず、360度欲しいままの筈の眺望はわずかに釈迦ガ岳方面とその支尾根を確認するに留まった。晴れてはいるがもやってすっきりしない空、期待度が大きかっただけに残念至極であった。

 で期待に違わなかったのが、変化に富んだ釈迦岳への縦走路。ブナやカエデ、ツガなどの疎林にクマザサを配した自然豊かな小徑を彷徨うかの如く。多少のアップダウンもアクセントと割り切れば気にもならず、まったく快適な山上トレールであった(正味32分の快速歩行)。

とそれはともかく縦走路のそちこちに、お目当てのシャクナゲもちゃんと視界に捉えてはいたのだが、いかんせん花にはまだ早く、いずれもつぼみの身では、山上の艶やかな春はまだこれからの感強しといったところでしょう。

  
        釈迦ガ岳(本釈迦)山頂から御前岳を                      昼食小宴会は下山途中の沢筋にて

一方この間、何組かの中高年グループとすれ違ったが、推察するに釈迦岳の普賢ピーク展望所まで車で乗り付け、御前岳まで往復しようと目論むにわか登山者と見た。どことなくぎこちない歩き方やタウンシューズもどきの足元、ペットボトルを携えただけの出で立ちでは、そう考える方が自然であろう。後刻、釈迦岳(本釈迦)を経て普賢岳展望所まで足を延ばした際、6.7台の無人の車を認めたのが、動かぬ証拠だぃ!と、申しておきたい。

 もちろんだからと言って彼等へ、個人的に何の不服、邪義、謗法があろうか。それよりボクが気になったのは、このように便利さの上に立った手軽な山歩きも、メンバーや場面などによっては抜き差しならぬ結末にならぬとも限らないということ。つまりは警鐘である。と言うのも岩峰である本釈迦からの縦走路はのっけから急峻な岩場の下りとなっていて、補助的にロープが張られているが、彼らを待ち構えていると、これに全面的に依存しきって降りてくるのだ。「おいおい、あんなに信用しきって大丈夫かい?」とM君と顔を見合わせて立ちすくんだ。しかもグループ全員がそれだ。中にはロープに依存するあまり、スタンスが定まらず足元はフラフラ。まさにロープにすがったままの態勢で降りてきては肩で息をする始末とあって、まったく見ず知らずのおじさんで

  
     みずみずしい緑々の森に圧倒される                         下山途中に現れた幸運ノ滝

あったが、「足場を固めて降りてよ!ロープは補助手段だよ!!」と思わず声を荒げてしまったのだ。そしてこの光景を上から見ていたグループ最後部のおじいさんは、「オレには手に負えぬ」と悟ったのか、一人しょんぼりと引き返してしまった様子。まぁ賢明な判断であったろうが、ついぞ誰がリーダーシップを取るやも分からず、つまりはこのグループの無計画な行動を目の当たりすると、くだんの憂いは大きくなるばかりであった。(だから何だぃ?と問われるとつらいけど) 

 さて下山路は矢部越へ取り、一気に下降。このルートもブナ林主体の気持のいい尾根道で、時の経るのがもったいないぐらいだ。それでもものの15分で林道(矢部越)に出て、後は蛇行する林道を辿らず、近道の登山道を下って、途中の沢べりで昼食小宴会と相成った。小滝を愛でながら心地よい涼風に身をさらし、ほろ酔い加減でラーメンをすするこのシチュエーションは何事にも代え難いひとときであって、山案内から昼食のお膳立てまで、至れり尽くせりのお世話をしていただいたM君には感謝するのみである。

                 
                    公園付近から見た御前岳(左)と 釈迦ガ岳(右)

とそんなこんなで、休憩・昼食を含めて都合4時間弱、実動で2時間50分弱の縦走登山を終えたが、総じて新緑の自然林の見事さには唸ったね。特に矢部越から登山口へ戻る渓流沿いの下山ルートは、シオジやケヤキの森が山一面を覆い、その圧倒的なみずみずしさに我が身は怯むほどに染まってしまったのだった。

 おっとしかしである。そもそもこの登山の主題は、「新緑を愛でよう!」よりもツクシシャクナゲの可憐な花々を観賞するのが目論みだった筈だ。しかし山上ではまだ早過ぎて果たせなかった。これは致し方ない。その代わり下山後、これを埋め合わせるべく、登山口にほど近い大杣公園へ立ち寄ってみたが、そこは息を呑むほどのサプライズであった。朱が艶やかなツツジの群落がそこいら一面に咲き誇り、その間隙を縫ってシャクナゲの白無垢色の清楚な花びらが競い合うように山肌を埋め尽くしていたのだ。ここまで(標高が)下がれば立派に花を付けていて、これはもぅ必見。新緑のすがすがしさと花々の妖艶さ、最後に一挙両得の思いが満たされて、当分の間は、「もう何も言うことはござりませぬ」の心境であったね。

                  
                        公園のツツジとシャクナゲの競演

(コースタイム)

南福岡:6:28⇒車(広川 I.C〜八女〜黒木経由、途中 黒木町の素盞鳴(すさのお)神社境内の大藤観賞を含む )⇒杣の里渓流公園(登山口)8:19 26→林道出合8:58 9:01→御前岳9:30 40→釈迦岳(本釈迦)10:14 22→釈迦岳(普賢岳)10:26 27→本釈迦・普賢岳分岐10:31→矢部越(林道出合)10:47 49→沢の合流点(昼食)11:02 43→幸運ノ滝12:02 05→杣の里渓流公園(登山口12:20 25⇒車⇒大杣公園12:30 45⇒車(広川 I.C経由)⇒南福岡14:25                                  (平成18年4月30日)

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