県南の山旅(前編)  
                 扇山〜石槌山〜背平山 挾間 渉

 私の所属するもう一つのクラブ・大分クレージートライアスロンクラブ(略して大分CTC)の忘年会が久し振りに催されることになった。県南のメンバーの提案であり、場所は蒲江町の民宿。

 日頃なかなか県南に足を伸ばす機会の少ない我が身としては、前々から気になっていた山や、一度は足跡を残してみたいと思っていた峠・林道などのこともあり、この機会に表題の‘県南の山旅’を計画した。

 気がかりなのは、忘年会の提案者・地元佐伯市在住の前田君の「狩猟解禁に伴い、林道は当分お休みです」との言。薮こぎをも辞さない低山徘徊派やMTB(マウンテンバイク)ライダーにとっては、冬枯れのこの時期こそが活動に最も似つかわしい。「案ずるより生むが易し」、とにかく行ってみよう。

扇山(佐伯市の街はずれの知られざる藪山)
12月20日 曇り時々雪のち晴れ
 5万分の1図幅を眺めながら、先ずは佐伯市街地のはずれに鎮座する、山頂にテレビ塔のマークのある小山(三角点標高376.7m)が目に入る。堅田川べりの津志河内地区から南に林道が1本、くねくねと山頂まで伸びている。佐伯市街地や番匠川河口を真下に見下ろす展望が期待できそうで、それに勝手な想像ながら近郊のため猟師も居るまいと食指が動いた。

   
                         扇山遠望(番匠川支流木立川より)

 この山の連なりの西端には竜王山(316m)があり、この山は麓の小学校の校歌にも登場する。しかし、その竜王山より高く、この連なりの東端に対峙する、今日目的の山には地図に山名がない。

 入り口には‘テレビ塔登山口’との標示がある。入口でマウンテンバイク(MTB)に乗り換え、薄暗い杉木立の中、最初は尾根の東斜面を回り込んだのち、右手(西側)に谷筋を見ながら車1台やっと通れるほどの荒れた舗装道路をくねくねと登って行く。すぐに無造作に停めてある軽トラックに進路を邪魔される。傍らで猟銃を手にした猟師が谷を凝視している。こっちの見通しが甘かった。前田君の言ったとおりだった。「何で俺たちのテリトリーに、この時期踏み込んで来るんだ!」とでも言いたげな無言の視線をかまわず無視し、さらに漕ぎ上がる。

 登るほどに猟犬の吠え声がだんだん近づいてくる。イノシシかシカを谷の上部に追いつめているのだろう。2台のトラックが相前後してせわしげに追い越して行く。山頂に近い上方で3発の銃声が静寂を破る。不安は募るが、「こっちも意地だ!」かまわずさらに漕ぐ足にも力が入る。

             

 一般的に山頂にテレビ塔が設けられている山は見通しのきく独立峰と相場が決まっているが、約30分を要した山頂は期待に反し杉木立に囲まれ眺望はまったくきかない。各テレビ局の中継塔が立ち並び、どこに移動したのか、山頂を示す標柱や三角点も見あたらない。どうやら山名すらなさそうだ。

[コースタイム] テレビ塔林道入り口(標高2m)12:41→山頂(標高376.7m)13:05、片道距離3.0q

[付記]佐伯市街地から結構目に付く山なのだが、地元の知人数人に聞いても、「竜王山の連なりの山で竜王山よりは高いけど山名は聞いたことがない」という。後日大分県の山の名前に詳しい梅木秀徳氏著「大分の山 大分県主要山岳丘陵一覧」(1987年刊行、非売品)で調べたところ扇山≠ニ判明した。しかし、今では‘テレビ塔の山’の方が通りが良いようだ。

石槌山と石鎚山
 先を急ごう。次なる山は米水津村と蒲江町の境界に位置する石槌山(486.2m)だ。四国の霊峰・石鎚山も石‘槌’山として記述されている場合がある。県南の石槌山と本場四国の石鎚山とがどういう関係にあるのか知る由もないが、豊後灘を隔てて四国と接するこの地、因縁浅かろうはずはない。

                 
                    初日の出のビューポイント・豊後黒潮ライン展望所


    
           低灌木のトンネルを頂上目指して
           

 この山への取り付きは、本来は麓・尾浦地区からだが、今日は水平線から昇る初日を拝めることで有名な豊後黒潮ラインの展望所(標高230m)からと、だいたいの見当をつける。西に伸びる尾根づたいに設けられた林道を10分ほど登ると林道は切れ、低灌木に覆われた登山道となる。数メートル間隔で木々に巻かれた赤いテープを見逃さないように徐々に高度を上げる。最後は急登5分で山頂。

 比較的温かい蒲江町とはいえ、この冬一番の寒波到来で、山頂に着く頃には雪が舞い、寒風吹きすさび、まさに本場の石鎚山を思い起こさせるような天候となった。眼下に時化模様の尾浦の海を見下ろす山頂の傍らには朽ち果てた祠が無造作にうち捨てられ、新しいコンクリート製の頑丈な祠に取って代わっている。

      
        頂上に立つ頃には粉雪舞う(眼下は尾浦集落)
     
                       
     


           

 前述したように、山頂へは本来、尾浦集落からが一般的な登路で、地図にも記されている。そして、尾浦からとおぼしきルートの山頂直下の急峻な懸崖には鎖場があり、これまた本場の石鎚山弥山(みせん)山頂直下の三の鎖を彷彿させる。

 時間に追われるようにあたふたと山頂を後にし往路を戻る。この山の全容を見渡せる尾浦地区のはずれの高台から、あらためて山容をじっくり眺めてみた。南面の山頂直下から尾浦地区まですっぱりと切れ落ちた様は、なるほど成就社側からの石鎚山と見まごうほどである。さしずめミニ石鎚山といったところか。

           
               尾浦地区のはずれから石槌山を見上げる

 信仰心の厚い尾浦地区の住民が四国石鎚山に詣で、その際必ず通るであろう成就社から見上げた神々しいほどの石鎚山北壁を眺めて抱いた強烈な印象を、地元のこの山と重ね合わせたとしても何の不思議もあるまい。そしてやや控えめに‘槌’を冠したのではなかろうか。そういえば石鎚山系もう一つの雄峰・瓶ヶ森山(1896.2m)を石槌山あるいは石土山と別称し石鎚山本峰になぞらえたとの文献記述もある。

 また、もう一つの推察がある。石槌山を山名に冠したものは岡山、広島、高知、大分の4県に7座あり、いずれも標高500mに満たない小山である。これらの山がすべて石鎚山を彷彿させる山容とは限らない。それよりも、霊峰石鎚山の御分霊を奉斎していると見るべきだろう。いわゆる分祠というやつだ。

 石槌山の山名の謂われには上記のいずれか、あるいは両方が関わっているのだろう。槌と鎚・・・勝手な想像ながら、このような推察にある種の確信的なものを感じた。 そうなると次なる興味は麓の神社などの縁起だ。次回は是非、実際に尾浦地区から登ってこの辺のことなどを確かめてみたいとの気持ちが高まった。

[コースタイム]豊後黒潮ライン(標高230m)14:19→林道終点14:30→石槌山頂14:44→豊後黒潮ライン15:12

背平山と背平林道
 時計は3時を回った。今日のうちにもう一つ登っておきたい山がある。高山海岸から見る、南面側山頂まで急峻な懸崖が突き上げるこの山に、遠目にもはっきりそれと判かる林道が山頂(391.8m)まで伸びており、前から気になっていた。

         
                 高山海岸からの背平山遠望

 高山海岸から国道388号線を車で西進しトンネルの手前旧道への分岐でMTBに乗り換え旧道を少し登ってすぐ左手に目的の背平林道入り口がある。「落石注意」との大きな看板がちょっと気になるところだ。取り付いてしばらくは新しく舗装された道を、東側山腹から南面へと登っていく。

 思ったほどにはきつくはない。しばらく行くと今度は大きく右に折れ、山腹を北面に向け上がっていく。途中、アスファルト舗装→砂利道→コンクリート舗装→砂利道とめまぐるしく路面が変わるが、山腹が急な割に林道そのものの勾配は緩やかで意外と登りやすい。

   

 時刻は4時を回り陽が随分落ちてきた。北側から次第に西面へと山腹を半周すると、佐伯市と境する山並みや宮崎県側の山並みが夕日に輝き始めた。一番高いなだらかなピークが場照山(661m)だろう。そうこうしているうちに目の前にNHKの中継塔が現れた。どうやら山頂は近い。程なくで駐車場に着く。ここから山頂まではちょっとした急登で、バイクを押す。

           
                背平山南面の中腹から場照山を望む
 
  
                  背平山山頂

 山頂は良く整備されており、とくに宮崎県側の日豊海岸の展望が開け、夕暮れ時、逆光がまぶしい。果てしなく続く海岸を飽くことなく眺めたいが、5時近くなり辺りが暗くなり始めた。今宵のねぐらへ向け足早MTBダウンヒルでの下山となった。

[コースタイム]国道388号線駐車場(標高20m)15:49→背平林道入り口(標高30m)15:54→背平山頂16:43 林道距離片道4.5q

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