「オーロラの音幻か」〜神秘の光に畏敬抱く〜
(2003年6月16日、西日本新聞朝刊に掲載)   
                          栗秋正寿

          
               「カーブ」/マッキンリー上空に,緑色の大きなカーブを
               描くオーロラ(1980bのカヒルトナ氷河から)

   
「魚の尾ひれ」/アラスカ第三の高峰フォレイカー(5304b)の南稜に,オーロラの火柱が上がる.激しくしなるその動きから魚の尾ひれを連想した(1980bのカヒルトナ氷河から)
   
「三本の帯」/フォレイカー上空に現れた三本のオーロラの帯.闇夜だったがオーロラの放つ光が辺りを明るくした(1980bのカヒルトナ氷河から)


「軽飛行機」/ハンター西稜の上空を飛ぶ軽飛行機.登山ルートはロープを使って岩峰を約100b下っていく(ハンター西稜の2700b地点)
「嵐」/三月中旬,あらしは去ったがいまだに風はやまない.同時期,アンカレジでは,風速48bもの風が吹き家屋倒壊など大きな被害が出た(ハンター西稜の2550b地点)

3月のアラスカ山脈(米国アラスカ州)、氷点下30度の星降る夜―。1カ月半におよぶハンター(4,442b)登頂を阻んだ悪天候が、その晩はまるでうそのような静寂に包まれた。

たった一人、私はカヒルトナ氷河のキャンプからオーロラを見上げていた。はるか北の空に現れた一条の光は、しだいに南下して天上でゆっくりとうごめきだした。エメラルドグリーンのカーテンは優雅に揺らめき、だんだんとその明るさを増していく。やがて、オーロラの放つ光が辺りを明るくした。

闇夜で見えなかった山肌の岩や雪、広大な氷河が、オーロラの明りでぼんやりと浮かび上がってきたのだ。初めて目にする光景に息をのむ。それは美しいというより、畏敬を抱かせる感覚だった。

宇宙からの贈りものを前に、私はアラスカの友人が耳にした「オーロラの音」の話を思いだしていた。その友人は、頭上でオーロラが激しく舞っていたとき「ビッシュ―ン」や「パチパチ」という音を聞いたのだった。実際、オーロラの音についての報告は非常に多いものの、いまだ観測機器による録音には成功していないミステリーなのである。

ここアラスカ山脈のような標高6千bを超え、オーロラが現れやすい高緯度に位置する山脈は、世界中を探してもほかにないのである。つまり、私が毎年訪れている冬のアラスカ山脈とは、地球上でもっともオーロラに近い大自然の展望台だったのだ。今にも音楽が聞こえてきそうな神秘の光の下、いつか私もオーロラの音に出合えるような気がしていた。

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