初夏、慌しく !、或いは優雅に、指山〜三俣山
+黒岩山〜泉水山の山旅
  
栗秋和彦

○パート1 午前の部
 水無月早々の5日、午前中しか時間の取れない挾間兄と、九重は指山〜三俣山をやろうということになった。長者原から仰ぎ見ると、前衛峰として見慣れている割には、すっぽりと三俣の山腹に隠れてしまって目立たない指山と、峻険な三俣北峰は、未踏のままだし、この時期ミヤマキリシマの群生地を掻き分けながらの登山に食指が動いた。ところが早朝.6:43、快晴強風の長者原へ颯爽と乗り付けたまでは良かったが、どこの駐車場も車でいっぱい。一台たりとも留めるスペースはなく、待ち合わせた挾間兄とともに、驚きの色は隠せなかった。もちろん九重山開きを控えた週末なので多少の混雑は覚悟していた。しかしこの時刻でこれほどまでとは、まったくの思惑の外であって、ボクは九重山開きの実力を見くびっていたようだ。まぁしかしだからと言って問題とはならない。少し離れるが、今宵の宿、星生倶楽部をスタート&ゴールにすればいいだけのこと。もちろん長者原界隈では、いざ出立しようとする登山者もわんさかである。気力みなぎる表情と、酔客の違いはあるが、深夜11時ごろの九州最大のターミナル・博多駅コンコースの人通りとボリュームは似てなくもないぞ、と日々のサラリーマン人生と重ね合わせて唐突に思い浮かべたりもしたが、その勢いがすがもり越へ至る硫黄林道にも繋がっている様には圧倒されてしまう。うんうん、まさに山開きを明日に控えてお祭り気分の九重山であったぞな。
  


         

                指山自然観察路(後方は指山)

さて我々も歩を緩める訳にはいかず、いやむしろ快速登山を指向する二名だからして、硫黄林道は速足12分ほどで「指山自然観察路入口」と記した大きな看板へ達する。ここを左へ分かれ、自然林の中の観察路を10分余りで右手に「指山」と書かれた道標を認める。この自然観察路はリョウブやカエデなどが繁茂する、まるで樹海のトンネルを行くような気持ちのいい、整備が行き届いたコースだが、分岐(「指山」の道標)からは徐々に傾斜がきつくなり、樹海を抜け出すころから一気に急登。フーフーと息荒くなったころにはなだらかとなって、ほどなく指山山頂(1449m)へ達するといった按配で、長者原から標高差420m、50分足らずのエクササイズは、三俣へのウォーミングアップと考えれば最適である。 

         
                
平地はランニング登山の趣で

   

しかしこの時期にしては何を血迷ったか風はめっぽう強く、ミヤマキリシマなどの低木のみで、遮るもののない山頂一帯では、エビのように身体を折り曲げて耐える場面もしばしばとあって、地図は吹き飛ばされないように、帽子はしっかりと手で押さえてと戸惑いは隠せない。まぁしかし眼下の長者原、背後の黒岩山から泉水山へのたおやかな連なり、その右奥に控える涌蓋山、更に後方の万年山へとつながるパノラマは視界明瞭明晰にて、パタパタ (風のはためく音) とBGM付きではあったが、うんうん納得の一級品であったぞ。そして一方で、背後に控える三俣山は、急峻な尾根と一気に落ちるガレ沢が我々に迫り来て、対照的な景色が展開する。しかし上部はガスに覆われて、それも段々と下がってきそうな気配なので、どのみちガスに巻かれる覚悟で登るしかなかろう。
          
               
        
        指山山頂付近のミヤマキリシマも時期遅れ、それに裏年と
            虫害が重なって・・・、しかし展望は抜群!

さて指山から三俣へは少し下って、急峻な支稜を一気呵成に詰めることとなるが、鞍部一帯はミヤマキリシマの一大群生地としてつとに有名な筈である。しかし害虫か或いは裏年かは分からぬが、申し訳程度に咲いていただけで、本来の艶やかさにはほど遠かった。この時期、九重では常套句として「花の山旅」などと銘打って大いに喧伝すべきところを、今年は虚位の申告となってしまうほど不毛・不作であった。「エーッ、一体どうなってるんだい ! 」と九重の中心から文句(愛?)を叫びたい気持ちだったぜ、ホントに。

   

                            

とそれはそれでこの急峻支稜直登コースの途中に5mほどの岩場があり、かってはここが唯一の難所であったと言う。しかし最近、アルミハシゴが設置され、難所は解消された模様である。それならそれで「よし、ハシゴを使わずにフリーで登ろうじゃないか ! 」と鼻息荒く登り詰めたが、実際に出くわすと、岩場の中程がせり出し気味で、それを越えるにはけっこう難儀しそう。あっさりと諦めてハシゴのお世話になった次第だが、厳に大言壮語は慎むべしであったか。そしてこのころからガスの中へ突入し、視界はわずかに。ほどなく下山してくる中年の夫婦一組と出会ったが、聞けば三俣の北峰までは辿り着いたものの、ガスでルートが分からず、迷いそうになったので引き返しているとのこと。せっかく指山から攻めて主峰を踏まずに引き返すとは、何とももったいない話ではないか。


                  
           フリーでも登れそうだけど・・・、やっぱ止めとこう

そこでボクは「我々はGPSを持ちょるき、大丈夫!」と思わず大見得を切ってしまい、オーナーの表情を盗み見たが、挾間兄はその時「そんなにアテにされても困るなぁ」と思ったらしい。もとよりこのハイテク機器も方角は示してくれるが、地形に忠実に (コースをなぞるように入力していないので) 導いてはくれないことを知った上での逡巡だったと思うが、ともかく己の男気発言?に翻意した夫婦ご一行様は踵を返し、即席の4人パーティとなってガスの山頂を目指すこととなったのだ。ボクの「旅は道連れ、世は情け」的な発想は「まぁ、初夏の九重ではないか、ガスの中でも何とかなるじゃろ」との安易な思惑に基づくものだったが、実は北峰に辿り着いたものの、ガスに巻かれてひととき迷った。「何とかならなかった」のである。

と言うのも未踏ゆえの悲しさか、お鉢巡りのイメージが湧かない。頼みのGPSによると、大鍋の縁をどんどん下っているようだが、主峰からはだんだん離れて行くのだ。どうもお鉢を左回りへと取ったらしく、主峰へは遠回りのルートを踏んでいるとの結論に達した。であれば潔く引き返し、北峰手前から右へのルートを取ったが、この間10分以上濃霧、烈風の中、うごめいたことになって内心少々焦ったことも吐露しておこう。

  
     視界不良の中、見知らぬ夫婦を先導して責任重大だ(本峯山頂付近)

さて仕切り直しのお鉢めがけて急降下すると、なるほど大鍋の底とおぼしき窪地に降り立ち、今度は一気に標高差120mほどを直登。難儀の末、無事主峰(1745m)へ踊り出たが、人心地はついたものの濃いガスと強風に長居は無用であった。しかしまったくこの三俣山山頂部一帯は道標もなく、草原の似たような丘がつづくので、ガスに巻かれたら、なかなか方向取りが難しいことを改めて痛感した次第。


 加えてすがもり越へ下るポイントとなる西峰へのコースも、迷い、戸惑い、うろうろとけっこう時間がかかった。それでもあらぬ方向から(とこっちが思っていただけ)ゾロゾロと集団で登山者が現れたので、渡りに船と問うてみると、「すがもり越からよ」とあっさりとおっしゃる。うんうん、ガスの中でもメインルートの心強さを感じ入った訳だが、おっと問題は我々の方向オンチにあったか。これでGPSがなかったらと思うと、濃霧・烈風のせいだけではなく、多少は背筋がゾクゾクしつつの下山であったが、もちろん連れのご夫婦には、そんな表情はおくびにも出さなかったのは言うまでもない、フーフー。と何やかやの濃縮山行も、すがもり越から長者原までのいわば九重銀座コースでは、上り下り大勢の登山者を掻き分けながら、速足&早駆け走を演じて体面を取り繕ったが、都合3時間半のエクササイズは慌しさだけが鮮明に、そして歴然とした教訓を残してお開きとなった。すなわち

@やみくもに突き進まないこと。特に視界不良時の憶測猛進行動は慎むべし。

Aハイテク機器はあくまでも補助手段と捉えること。先ずは地図とコンパスの基本に立ち返るべきか。

と、まだまだ発展途上のおじさん二人には改心の余地多しであって、そこのところをノーテンキ挾間おじさんはどれだけ理解しとるとやろか? 白昼露天に浸り屈託のない表情を盗み見ると、ちと心もとない気がしないでもないが、こちとら午後の部を控えて忙しいゆえ、先ずは先輩にゲタを預けるのみである。

           
           最後はやっぱりランニング登山スタイルで決める

(コースタイム)

パート1 星生倶楽部6:59→長者原7:05→自然観察路への分岐7:17→指山への道標7:28 29→指山7:54 59→岩場8:17→三俣北峰8:33 47→三俣本峰9:00 05→すがもり越9:33 44→長者原10:25→星生倶楽部10:32  (露天風呂入浴&小宴会)   同行者 挾間     Photo by Hasama

 

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