04:鏡の国のアリス
静かな室内で、顔を突き合わせ真面目に困惑する男が二人。
「……で」
「……で、じゃねぇよ。どうすんだよ」
「どうするって、引きずり込んだのフィンクスじゃん」
「いや、あれ持ってきたのはお前だろ。どうすんだよ」
が粘着質の液体に四苦八苦しつつ、服を脱いでいる衣擦れの音がする。
たったドア二枚向こうの音、良くある一人暮らし用の安アパートは定番どおり壁が薄く、ただでさえ五感の優れたシャルナークやフィンクスには耳の真横で行われているかのように、その音が良く聞こえた。
洗面所を使い、しばらくなにやら家捜しのような音がしていたが、戸惑ったように「風呂を借りる」と律儀に断ってきた声は遠慮がちなもの。原作漫画にあった主人公サトルの家で、が自分の家の様に遠慮もへったくれもなく笑顔で家事を手伝っていた様子とはまた違い、原作では見たことのない反応に、なんだか新鮮で気恥ずかしいものを感じた。
……その後、続けて聞こえてくる音の正体に気づかなければ、まだ二人は平和だった。
湿った衣擦れの音。
何かを諦めたようなため息の後、ゆっくりと上着を脱ぐ音、畳む音、ブラのホックを外す音、スカートのホックを外し独特な音を響かせファスナーが下げられ、湿って重たい音を立ててスカートが床に落ち……。
シャルナークとフィンクスは、ドア二枚向こうに居るのは一般人だと思いこもうとするが、戦闘などの派手な登場シーンはないがはいわゆる二次元の人間、漫画のキャラクター。主人公サトルたちにとって、大切な人間で奴らにとっては俗に言う安心できる場所。シャルナークやフィンクスも、が出るシーンでは緊迫感より安堵の方を強く感じていた。
が場面に出てきたなら、緊迫シーンは一時保留。主人公のサトルたちにとって、ささやかな安らぐ場面になる。ほっと肩の力を抜き、リラックスできるようになる。
以前、旅団内でが登場する漫画の「うらおもて」について話をしたが、その時のの位置づけとして意識していたのは「主婦」の部分。主人公サトルが恋愛やら戦闘やら未来やらに悩んだりうやむや青春している間、ちょこちょこ意味深なシーンを挟み番外編にさり気なく描かれつつ、最終的に本編に絡む大問題を勃発させて、は某キャラと恋愛関係なっていった。出会いはやはりお約束どおりの最悪なもので、作中で自身もぼやいていたものだ。
だから、そんな恋愛事情を知っている旅団内男性陣としては、わざわざ主婦になってしまったより、思春期真っ只中ストーリーど真ん中の主要女性メンバーに意識が向いてしまうのも、自然と言うか成り行きだと認識していた。
けれど、現在のはシャルナークやフィンクスが見たところ、休日と言っても母親とデートをする程度で、男の陰など見当たらない。
更に言えば、主人公組であるサトルたちがまだ高校生になっていないのも大きい。
が将来の夫と出会うのは、サトルたちが高校生になって一ヵ月後の事なのだ。擦り切れるほど読んだシャルナークの記憶は正確で、フィンクスも細かいことは覚えていないがと相手キャラが出会っていないのは、原作と現在のの言動を比べて理解していた。
「……どうすんだよ」
「……どうしよっか」
顔を見合わせて、らしくないがお互いにほんの少し頬を赤らめてたりして、そんな顔を見てしまい少し気分を悪くしたりと、二人は表情をめまぐるしく変えていった。
脱衣所から浴室へと移動する音。浴室内のものを確かめているのか、シャンプーなどのボトルが動く音、悩むような唸り声が聞こえてきたかと思うと「しかたない。お借りします」と手を合わせて湯を使い始める音。
「……だから、どうすんだよ」
「……とりあえず、ここ片付けようよ」
どうしてもあれやこれや想像してしまい、未経験の少年でもないのに頬を赤らめてしまう男二人。情けないとお互いに思いつつも、口数少なく部屋を片付け始める。
何か面白いことはないかと、たまたまシャルナークの目に付いたひとつの情報。
なんてことない噂話のはずのそれに、強く興味を引かれた数週間前。
たまたま暇だとぼやいていたフィンクスを引っ張って、噂話の元となった物の実在を確かめて盗りに行った。本当に眉唾物のうわさ。よくある御伽噺のようなもの。
異世界への門を開き、強き心をもつ者ならば望むものを引き寄せられる。
うそくせーと笑い飛ばしたのは、シャルナークもフィンクスも同じだった。
けれど興味を引かれたのも同じだった。
それは一見してただの大鏡。人なら三人は並んで映ることが出来る頭からつま先まで映してしまう大きさの鏡。
オーラを感じたのでそれなりに何か起こるだろうと、多少の期待を込めてかぶさっていた布を取り払って出てきた大鏡。覗き込んだシャルナークとフィンクスを映したかと思えば、何の前触れもなく真っ暗になったその鏡。
「やばくねぇか」
フィンクスが思わず呟くほど、オーラの膨れ上がったそれは、シャルナークとフィンクスのオーラを明らかな勢いで吸い取り始めていた。危険だと思ったときにはすでに遅く、なんらかの駆動音が二人の耳に届く。映るのは、鏡の前に立った二人ではなくどこにでも居るような学生服を来た男。それも三人。
「……あれ」
「……これ、テレビか?」
そんなはずはないと分かってはいるが、間抜けな声が二人の口から漏れる。どこをどうしたら二次元と三次元が同一だと思うのかも不思議だが、そこに映ったのは紛れもなく二人の知っている人物だった。
「サトルじゃん。なに、これアニメ?」
どう見ても実在の人物・実写だと分かっていつつも、原作やアニメと同じように感じるその顔に、シャルナークは疑問の声をあげた。フィンクスは向けられた視線に肩をすくめ、自分に判断できるかと顔をしかめた。
シャルナークが警戒しつつ鏡に近づきなおすと、画面がぶれて声が聞こえ出す。
学校らしき場所の屋上で、風に吹かれつつ話す男三人。「うらおもて」の主人公サトルとその悪友二人だった。なにやら真剣な表情で話をしているらしく、聞こえてきた声に思わずシャルナークとフィンクスも耳を済ませてしまう。
『……だよ』
『でも、実際にさんが落ち込んでるのは分かりきったことじゃん』
『でも何にも言ってくれないな。当たり前だけど、俺たち年下のがきんちょって思われてるだろうし』
『さんは僕らがやってること、まだ知らないもんね。話せたら頼りになるって思ってもらえるかもしれないけど、逆に危険だし』
悪友たちの言葉に、サトルの顔がゆがむ。
こんなシーンは見たことないな。もしかしてアニメオリジナルだろうか。まさか、もうとっくに高校生編にアニメも移行してるから、中学生編のオリジナル話なんて今更しないよ。なら、どうしてだろう?
シャルナークの内心の疑問に答える声はなく、フィンクスも黙って鏡を見つめていた。
中学生を卒業する前後は、原作漫画でもアニメでもドラマCDでもどのジャンルでも同じ流れだった。サトルたちは大きな戦いを一段落させて、新しい高校生活への勉強にうんざりしつつ戦いに供えて体を鍛え、小休止的番外編が多く世に出てきた。
が悩み、それに気付いたサトルたちが苦悩する場面など欠片も見たことがない。
困惑する男二人に気付かない中学生三人組は、話を続けていく。
サトルの口が開かれ、しかたがないとばかりにため息が吐かれる。
『姉ちゃん、絶対こっちに心配かけないようにするからな。むしろ、こうやってオレたちが気付けるほど悩んでるってのが問題だよな。今までこんなことなかったから、どうやったらいいかわかんねぇ』
同意の声があがり、屋上に風が吹く。
場面転換なのだろう風景が流れ、の仕事風景が映された。
パソコンのキーボードを打つ手が震え、何かから逃れるように一心不乱に画面を睨みつける。時折どこかに視線をやり、動揺したような青白い顔でぎこちなく視線を画面に戻すという行動を繰り返し、仕事はこなしているが今にも倒れてしまいそうな風情だった。
「こんな場面、見たことねぇな」
思わずフィンクスが呟いてしまうほど、今まで見てきたキャラクターのからは見られない場面だった。
登場するシーンでは常に笑っていて、大問題を勃発させたシーンでも真剣な顔はあれど青白い顔はなく、芯の強い女性としか映らなかった。笑って体を張り、恋愛とはこうも人間を変えるのだなと思うほど積極的に愛する男を守るは、連載当時やはり支持を増やしていた。主婦になりその人気も落ち着いたが、一般人ながら強い女性だというのが共通認識だとシャルナークもフィンクスも思っていた。
けれど、これはどうだろう?
怯え泣きそうな顔で廊下を歩く、昼休みも一人で何かから逃げるように時間を過ごし、同僚に心身の健康を心配されて上手くあしらえずに言葉少なに首を振り、今にも死んでしまいそうなほど血色の悪い顔のまま、寄り道もせずまっすぐ家へと急ぐ。
恋愛のれの字も見当たらず、このままでは話の流れがおかしくなるのではないかと、見ている二人が心配になってしまうほど。
そしてCMも挟まず続いていく場面は、の気分転換にと主人公サトルの母ケイコの妹、実はサトル達サポートをしているの母が娘のを休日デートに誘うところ。サーカスを見に行き、そこでもあちらこちらに視線をさまよわせて顔色を悪化させ、母親の気遣いに申し訳なさそうな顔をする。
何をすることも出来ず呆然と見ていた二人だが、そこでようやく正気付く。
「そう言えば、望みのものってなんだろうね」
「……これが自分の望みだとかは、思いたくねぇんだけどよ」
フィンクスの言葉に、シャルナークはまったくだと頷く。
まるで実際に漫画「うらおもて」の世界があるような映像も、そこに映るのが主人公組や敵組ではなく連載時間だと脇役であるの日常風景映像であることも、二人とも望んだことすらない。もし見られるのならば、やはりもっと戦闘の裏側だとかやり取りを見たいものだと思うのだが、そうこうしているうちにの視線の先に見えたもの。
「……は?」
「……あ?」
飛行船。
サトル達の世界では飛行船より「ひこうき」が主流だったはず、と二人が考えつくより先にの前に大男が出現する。サトル達と敵対している組織の、連載当時中の下くらいの雑魚。けれど一般人であるにしてみれば、絶対に敵わない相手。
の母親が常人の目に触れぬよう結界を張り終え攻撃するより先に、へと武器が振り下ろされる。ここに主人公組はいない。は突然の事態に呆然と振り下ろされる剣を見ている。
咄嗟に、二次元だとか漫画だとか絶対にありえないだとか言う常識が、シャルナークとフィンクスの頭から吹っ飛ぶ。
嫌いではないし、むしろ好きなキャラクターとして名前を挙げられるの、原作にはない危機に二人とも体が動いた。
フィンクスが大鏡に伸ばした手は鏡面にぶつかることなくの腕を掴み、シャルナークの持ったアンテナは大男の脳天に突き刺さった。自分の方へとを引き寄せれば、まるでこれが世界の境界線なんだとばかりに鏡面が歪み水分と粘着質を持っての体を包み込む。鏡から完全にを引きずり出すと、鏡の向こうで驚愕の声をあげるの母親と痛みと操られる苦痛に身をよじる大男がフィンクスとシャルナークの目に映った。
「バイバイ」
シャルナークの言葉と同時に指示が飛び、大男は自らの手で自分の首をねじり切る。悲鳴もあげずに大男の存在など意識の外なのか、娘の名前を叫ぶの母親。
向こうからこちらは見えないのかとシャルナークが分析していると、フィンクスの安堵したような声が響く。
「……間に合った、ってか」
「いや、間に合わせちゃだめだろ。いや、でもほんと」
反射的にシャルナークは突っ込むが、フィンクスはなんでだよと不思議そうに首をひねる。深く物事を考えろと突っ込むべきか、それとも強化系だから仕方がないと諦めるべきかとシャルナークは考え始めるが、すぐに意識をへと移す。
産まれたばかりの動物のように、粘着質の膜に包まれた。フィンクスが慌てだし、シャルナークも内心慌てつつどうにかこうにか対処する。
は、まるで実在の人物のように目の前で生きていた。
体温の温かさ、苦しそうに喘ぐ息、上手く目が開けないだろう苦痛の表情。
「……」
こういう表情もちょっといいな、とフィンクスとシャルナークは思ったが、懸命にも口に出さずに対処を続ける。途中シャルナークは席を外したが、馬鹿みたいにでかいフィンクスの声は良く聞こえた。
そこでようやく、シャルナークも気付く。
「……本当に生きてるね、」
「……なんなんだこれ。なのか? いや、ありゃ漫画だぞ? 百歩譲って実写版だとしても」
「ドラマの撮影は二日前に発表されたばかりだよ。しかも最初は小学生編からだし」
静かな室内に響くのは、大鏡に布をかぶせ部屋の隅へと片付ける音。かすかに聞こえる入浴中だと分かる音。時折聞こえるの声。
「……そっくりさんとか」
「お前が言うな。ありえねぇだろ」
漫画のキャラクター実体化。しかも引きずり込んだのは自分たち。
信じられない事態に自分たちがそれを信じているのかいないのかすら、判別がつかずに困り果てる。
そのうち風呂から上がった音が響き、着替えを用意していないと気付いたシャルナークがどうしようと盛大に困り始める。フィンクスは盗ってくる手間と時間を考え、とりあえず先日盗って来た自分用のシャツをシャルナークに示してみた。
けれどシャルナークは馬鹿にしたような目でフィンクスを見る。
「フィンクスって、本当にエロ親父だね」
「この場合はしたかねぇだろうが! 狙ってねぇよ!」
男物のシャツだと色っぽさがアップする、というよくある場面を想像してしまった二人は、即座に頬を染めてしまう。お互いの気持ち悪さにすぐに表情を引き締めるが、の困ったぞという独り言は良く聞こえた。
「……盗ってくる」
「説明してくっか」
それぞれ色々諦めて動き出し、シャルナークは静かに外へと飛び出し、フィンクスは空咳をしながら脱衣所の扉前へと足を進める。
その音に気付いたが動きを止め、それを分かっていながらフィンクスは扉をノックする。
「……はい」
多少警戒するような声音に、フィンクスは少しだけ笑みを浮かべた。さっき二人きりになったときも思ったことだったが、の声はフィンクスの想像していたとおりの声だったのだ。
心地良い好みの声は、自然とフィンクスの気持ちを高揚させる。
「あー……悪ぃ、服用意してねぇんだ。今シャルが」
盗ってくる、と言いかけて言葉を止める。
悪いことは悪いと堂々と言ってのけるを前にして、犯罪者だと自白するようなことはどうかと考え込む。
「あの?」
不安そうな声を煽るようなことは言いたかないな、とフィンクスは一応考え、声音を変えないように続きを口にする。
「ああ、シャルが今買出しに行ってっから。悪ぃけどよ、しばらく風呂に入っててくれ」
「そんな、あの。………………すみません、ありがとうございます」
断ろうとしたようだが、は現状に気付いたのか小さな声でもぞもぞと言葉を付け足す。さすがにここで好意に甘えておかないと、自分が全裸で行動する羽目になることに気付いたらしい。
それでも構わねぇけど、とフィンクスは思ったがシャルナークの反応が怖くて考えるのを止めた。
「大丈夫か?」
代わりに口をついてきた労わりの言葉に、はもちろん驚いたがフィンクス自身も驚いた。
なに言ってんだオレ。
けれど漫画を読んでいるときに想像したような、柔らかい笑い声がフィンクスの耳をくすぐった。
「大丈夫です、フィンクスさん。助けていただいて、ありがとうございました」
穏やかな口調はフィンクスの名前を一度呼び、心臓を跳ね上げさせた。
落ち着け、こいつは漫画のキャラクターだ二次元だ紙と墨の集合体だとフィンクスは呪文のように考えるが、遠慮がちなの声を耳は積極的に拾ってくる。
「あとで改めて御礼を言わせていただきたいのですが、本当にありがとうございます。私、あのまま死んでしまうと思ってたんです。ありえない出来事に硬直しちゃって」
緊張しているのか現状が未だ信じられないのか、饒舌なにフィンクスの舌も動き出す。
「たまたまだ、気にすんな。それより、服だめにしちまって悪かったな。あんなことになるとは思ってなくてよ」
「それこそ気にしないでください。あのまま死んでしまうより、生きてる方が大事って心底実感してるんです」
奇妙な会話だと、フィンクスも扉を挟んだも感じでいたが、シャルナークが服を盗ってくるまでそんな穏やかな会話は続いた。
「ところで、あの、ここは……フィンクスさんたちのお部屋ですか?」
「ああ、たまたまシャルとお前のこと見つけてよ。反射的に助けちまった、オレともあろうものが」
「なんですかそれ。私御礼言ってよかったんですか?」
「おお、感謝し敬い持ち上げるといいぞ」
「ありがとうございます。フィンクス様様ですね」
軽い冗談のやり取りをシャルナークが目撃し、瞼をこすってみるが現実は変わらないと驚愕するほど、扉越しにとフィンクスは親密になっていた。
二人とも現在の詳細な事実を認識したくないあまり、お互いの親睦を深める結果にいたったのだとシャルナークが理解したのは、着替えたが片付いた部屋に戻ってきたときだった。
あまりにも自然に申し訳なさそうな顔をする、あまりにも自然にそれを照れくさそうによせよと遮るフィンクス。
座る場所を譲り合い、なんとなく三人とも顔が見える等間隔の位置に座り、シャルナークはの顔をよくよく見つめてみた。
確かに、実際「うらおもて」のが自分たちの世界にいたらこんな顔だろう、そんな顔の作りをしている女性。むしろ漫画から抜け出てきたといわれれば納得するほど、漫画のイメージそのままな鏡の向こうからこちらに来た。
フィンクスとぎこちないながらも話していたが、視線に気付いたのかシャルナークを見る。
「なに?」
意図がわからず思わずにっこりと良い笑顔でシャルナークが問い掛けると、はほんの少しの動揺を見せながらも笑みを浮かべて頭を下げてきた。
その動きにシャルナークも動揺する。どうしよう、「」に頭を下げられちゃったよ!
けれどシャルナークの心の声が聞こえるはずもないは、口を動かす。
「シャルさん、お洋服ありがとうございました。ぴったりサイズで着心地も良いです。ありがとうございます」
丁寧な言葉に、いえいえと反射的にシャルナークも頭を下げていた。そして頭をあげたは、フィンクスとシャルナークを見て改めてと前置きし、背筋を伸ばした。
「と申します。今回はお二人に命を助けていただき、しかもこんなに親切にしてくださって、感謝で言葉もありません。本当にありがとうございます」
あ、サトルたちを助けた老人にも言ったセリフだ。
シャルナークとフィンクスは視線を飛ばしあい、思わずにやりと口の端を上げてしまう。
時代は最初の方、主人公のサトル達が小学生だった頃のこと。
何度目かの戦いの後、現場付近にいた訳ありの老人に連れられて帰宅した、ワンシーン。
そこはサトルの母ケイコの出番だろうと突っ込むものもいたが、事情を知っているケイコは平然とした顔で居て、のように帰宅が遅いサトル達を心配して、玄関で待っているということはなかった。なので必然的に、が礼を言ってしまう流れだった。
本当に「」なんだなと、改めてまぶしく感じながらの顔を見る二人に、は首をかしげて二人の顔を見つめ返した。