暇つぶし開始


 をパクノダ、ノブナガ、シャルナークの三人と共に仮宿に置いておき、ノブナガの予想通りウボォーが残留した結果、サテラ・ウィンスキーの洋品店に向かうのはクロロ、ヒソカ、マチ、シズク、コルトピ、フィンクスの六人になっていた。
「団長、これなら全員集まる必要なかったな」
「宝を開ける際に注意は必要だ。まぁ、呼んだ手前、的が小さくて悪かったな」
 気にすんなとフィンクスは首を振り、先ほどから頬を緩ませっぱなしのヒソカを盗み見た。何をするつもりか予想は出来ないが、なにやらお宝とは別のものに欲情している気がしてならない。
 住人をいたぶる事が出来ないと知ったフェイタンはどこかへと出かけ、フランクリンとボノレノフは目立つ容姿なのでクロロの指示で物資調達に渋々ながらも出かけていき、比較的目立たない容貌の者たちが出動した。ヒソカやコルトピは目立つ部類なのだが、ヒソカは本人たっての希望で行動を共にし、コルトピはフェイクを造るためにクロロが連れてきていた。
 どう見ても普通の洋品店だよなぁと店を見上げたフィンクスは、クロロの合図で動き出したマチを見て欠伸を漏らした。
 難なく侵入できる店内、凝をしても変わったものの見つからない店内を通り抜けると、パクノダたちの言っていた通りの居住区へと出る。サテラの部屋を重点的に調べる傍ら、のだろう部屋へも数名別れていく。
「殺すなよ」
 囁くように告げられた一言に、誰も彼も動きを止めるがすぐに次の行動へと戻る。
 自室にての帰宅がないことから、どこか落ち着かない素振りで本を読んでいたサテラは、音もなく首に刃物が当てられているのに気づくと瞠目して言葉をなくした。
「動いたら飛ぶよ」
 何が、と聞き返すまでもない脅迫に、サテラは息を呑むことも出来ずに呼吸を止めた。
 その間にシズクが部屋中を荒らして回り、マチは滅多に使わない刃物を面倒くさそうにサテラに突きつけていた。
 他の部屋はクロロとコルトピとフィンクスがセットで、ヒソカはまっすぐにの部屋へと向かい、目的のものを探そうと鼻歌を歌いながらあちらこちらを引っ掻き回していた。
「おい、あんまり荒らすなよ。ばれるだろ」
「居候先の主人の部屋が荒らされていて、自分の部屋だけが綺麗なのも気持ち悪いと思わないかい? それに、この部屋に隠されていないとも限らない。ねぇ、団長」
 フィンクスの言葉に歌うように返したヒソカは、クロロが頷くのを見てより一層楽しげに物色を続け出した。
 本や小物類はもちろん、衣服や下着にまでヒソカが手をかけたときは、フィンクスとしては止めたほうが良いのかもしれないと一瞬迷った。女性陣がそれらに異常なほどこだわりを見せているのを知っているからということもあり、もヒソカに触られたと知れば気持ち悪いだろうと言う簡単な推測からだった。
 けれどフィンクスがクロロを伺うと、クロロは肩をすくめて自分も物色を続行していた。コルトピは軽い身のこなしで棚の上を物色し、ひとつひとつを手にとっている。
 フィンクスも探し物をしようとのものを物色するが、物が多いほうではない室内は四人いればすぐに作業が終わってしまう。
「ないねぇ、めぼしい物」
 残念なのか満足しているのか全く分からない口調のヒソカは、いくつか室内のものをくすねた気がしないでもない。フィンクスは膨らんでいるヒソカのポケットを見てしまったが、慌てて知らない振りで視線をそらした。ノブナガ達にばれでもしたら、何を言われるか分からない。
「こっちは特に収穫なし。怪しいのは持ってきたけど、そっちは?」
 マチとシズクが首を鳴らしながら合流してきたが、その表情はさえない。コルトピは「こっちもないよ」と軽い口調で答えるが、それはそれでつまらない。別の部屋に行くとコルトピは一言呟き、団長の護りをマチと交代した。
「殺したのか、女」
 静かな寝室方面へ首をめぐらしたフィンクスに、シズクは首をかしげて答えた。
「なんで? 団長が殺すなって言ったじゃん。フィンクスって馬鹿?」
「お前に言われたくねぇ!」
 心底不思議そうなシズクの視線に、フィンクスは歯を鳴らして噛み付く。そんな二人を放ってクロロがマチを見ると、マチは「気絶させただけさ」とコルトピと同じようにつまらなさそうに呟いた。
「じゃあ、後はリビングやら風呂場だな」
 クロロが呟くと、やる気のない声が次々に返事を上げる。リビングならまだしも、幻影旅団が一般人の自宅の風呂場に侵入だなんて。
 誰も口にしなかったが、馬鹿馬鹿しいにも程がある指示だった。けれどお宝が見つかってない以上、クロロの指示は間違っているわけではない。
 フィンクスが女所帯の風呂場捜索をパスしようと口を開くと、コルトピが部屋に飛び込んでくる。扉が大音響を立て、開くというより体当たりの勢いで開いたそれはコルトピに跳ね返っていく。それをまた拳で止めたコルトピが、どこか興奮したように跳ねていた。
 あまりの勢いに全員の視線がコルトピを見るが、コルトピはクロロだけをまっすぐ見て口を開いた。
「それっぽいの、あったよ。店の真ん中にあった」
 言うが早いか部屋をまた飛び出していくコルトピの後を、全員が顔を見合わせてついてく。

「……マジでこれか?」
「コルトピはそう言ってるよ。フィンクス、やっぱりば」
「偽装してあるのかねぇ、ボクにはちょっと分からないな」
「……マチ、お前はどう思う?」
 店にある服やら雑貨のそれぞれのコーナーの一角、淑女用のドレス数点と共に置かれている紳士用のシルクハット。
 それを囲みながら会話する面々を見ると、クロロはマチへと視線を向けた。
 凝視するでなし、疑っているわけでもないマチの視線はクロロを見ずにシルクハットに注がれていた。
 フィンクスとシズクが言い合っているのを気にも留めず、ヒソカがクロロと同じように視線をマチに向けることに反応も返さず、マチは大きく息を吐いて頭を掻いた。
「団長」
「なんだ」
 マチはもう一度シルクハットを見つめ、クロロに肩をすくめて見せた。
「ビンゴだと思うよ」
「運ぶ。女に確認は取ったか?」
 宝は「持ち主」や「管理人」の許可なく遠くへ持ち運ぶことが出来ない。
 持ち運んだと思っても、一瞬のうちにいずこかへと掻き消えてしまう厄介なもの。
 それでも「持ち主」や「管理人」を見張っていればいずれ彼らの手に戻ってくるのだが、持ち運ぶ許可の言葉を吐かせれば勝手に消えてしまうことはないといわれている。
 マチとシズクが頷くのをクロロは確かめ、コルトピに顎をしゃくる。
「うん」
 コルトピも心得たとシルクハットに近づき、無造作に片手を当てる。そしてもう片方の手から、フェイクが当たり前のように姿をあらわした。
「わざわざフェイクを使うのかい? どうせ許可はもらったんだろう?」
 ヒソカが分からないと首を捻るが、問われたフィンクスもクロロの考えが分かるわけではなく、しるかよと呟いてヒソカを無視した。
 クロロはマチとシズクに視線を向け、マチは片手を上げて本物の方のシルクハットを手に持った。
 なんの抵抗もなく手の中に収まるシルクハット。本当にこれが? とシズクとフィンクスが顔を見合わせるが、コルトピは本物があった場所にフェイクをきちんと置きなおす。
「で、撤収?」
 ヒソカが物足りなさ気にクロロを見つめるが、クロロはヒソカから視線をはがして軽く頷くに留めた。
「欲しいものがあるなら持っていけ。特に金目のものはないがな」
「そうこなくっちゃ」
 クロロの言葉にヒソカが嬉しそうに自分のポケットを叩く。シズクが興味深そうにそのポケットのふくらみを見つめるが、中身がなんなのか知っているフィンクスは見ないようにシズクの視界を遮った。
 マチは見当が付いたのか吐き捨てるような表情を浮かべるが、クロロはそ知らぬ顔で表へと出て行く。マチもその後に続き、ヒソカ、シズクにフィンクスとぞろぞろ店から出て行った。
 コルトピは最後に何着か服を手にすると、きちんと持っていた袋に入れて最後尾で店を後にする。
「……一応聞くけどな、コルトピ」
「うん、なに?」
 フィンクスが言いがたそうに話しかけると、丸い目がフィンクスを見ながら隣を歩く。
 シズクがお腹がすいたと声を上げ、クロロがどこかの店でも入るかと提案する。ヒソカがオススメの店の名前を挙げ、マチがメニューの内容を簡単に聞く。
 そんなほのぼのとした一応仕事後の風景を見ながら、フィンクスは奥歯に詰まったものを穿り出すように言葉を出した。
「なんで女物の服なんだ?」
「だってほら、えーっとだっけ? パクがその子の着替え、欲しいって言ってたから」
 だからついでに持ってきた。
 あっけらかんとしたコルトピに、フィンクスは頭を抱えたくなった。無造作に女物の服を持ってくるコルトピもそうだが、男であるコルトピにそんなことを頼むパクノダもどうだと遠くを見つめてしまう。
 しかもコルトピは迷うことなく数点の服を手に取った。サイズまでいつのまにか把握してたんだろうかと思うと、パクノダは良いとしてコルトピ自身でサイズの見当をつけたとするなら、その行動にやはりフィンクスは頭を抱えてしまう。
「フィンクス、この後みんなで買い食いだって」
 ちゃっかり前方の話を聞いていたコルトピは、いつの間にか本当に頭を抱えていたフィンクスを置いて先を行く。
 仮宿にまだメンバーが居るから持ち帰りだと言うメンバーや、面倒くさいから襲撃するというメンバー、お気に入りの店だから普通に買ってくるよと笑うヒソカなどの群れにコルトピは混じり、フィンクスは頭を掻きながら前方との距離を詰めていった。
「おれ襲撃に一票。暴れ足んねぇ」
 結局、ヒソカが気に入りの店に買出しに行き、暴れたりないメンバーは近くの宝石店を襲撃することにした。暇つぶしながら警備員は腕の良い方である念能力者で、フィンクスたちは少しばかりの暇つぶしを楽しんだ。
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