初夏、坊ケツルの夜、妙齢?の賓客はヒッパレ(※1)の歌姫だった!の巻
 〜「ミヤマキリシマ観賞ゴールデンコースを行く」続編〜 栗秋和彦

 
挟間兄の激情発作的長編、「ミヤマキリシマ観賞ゴールデンコースを行く」の末尾に
骨折した足首の難儀を承知でやがて上がってくるであろう、マウンテンバイク(以下、MTB)別動隊の栗秋に後編を託し、筆を下ろすことにする

 なんて勝手に記されていたが、そんなこと言われても困るよなぁ。賓客三名をお迎えし、ただキャンプして宴会を張っただけだもの。物語には訴求力や意外性、或いは事件性(猟奇性があったらなおよろしい)など、そして何にも増して起承転結が必要なのに、下界で雑事にまみれて2〜3週間も経ると、記憶はえらくあやふやになってしまい、筆を起こすには自信がなかった。ただ単にこの宴会キャンプを描写するに、最初は意気軒昂、興にのっては放歌喧騒モードに陥りつつ、終盤は寄る年なみに勝てずかトーンダウンの果てに、酔い潰れて(約一名のこと)、静かに坊ケツルの夜は更けゆくのみであった、で終わってしまいそうなのである。ぶつぶつ。

 そんなこんなで今ごろ反芻しても、どうも心もとないが、それでもとなると時系列的に行動実態を追い求めて並べるしかなかろう。多少の記憶違いやデフォルメ、或いは舌っ足らずな面もあるのかも知れないが、その点は平にご容赦願いたい。

 先ずはアプローチ編。この時期、暮雨登山道(大船林道)入口の吉部界隈は車の洪水である。側道や空き地には一分の隙なくビッシリと車が居座り、入山者の多さが分かろうというもの。そこで筆者は予め入口近くの憩処「チョータラ」にお願いして留めさせていただき、颯爽とMTBを駆って坊ケツルを目指したのは前述のとおり。自転車ならルックペダルで足首を固定できるので、リハビリ中の我が身でも足元に気遣いなく登れるという目論みであって、決して目立とうとか、話題性を提供しようとか、そんなこんなの邪心、野心はまったくござらん。

             
                  九重の森は初夏の装いで迎えてくれた

 で、たしかに大船林道をMTBで上るについて、九重の森は初夏の装いで迎えてくれて、木々は緑々にしてそのみずみずしさをひけらかすように筆者に迫るんですね。うんうんこれには恐れ入ったし、今回は一人なので他人のペースに惑わされることなく、マイペースで上れる筈だったんだが....。いつもと違うのは一泊分の所帯道具と嗜好品、おつまみ、その他雑多を詰め込んだザックの重さか。本来なら林道入口のゲートのみが障害物で、後は標高1303mの法華院温泉まで一回たりとも足を着かずに上れるコースなのに、鳴子川徒渉後の急坂など3ケ所で降りて押す羽目に。これしきの勾配で途中足を着くようでは素人の域を脱していない、などとほざいていた己が恨めしや。

しかし坊カツル盆地の一角まで上がると爽やかな風吹きわたり、新緑の山々はところどころにピンクの彩りを鮮やかに添えて迎えてくれたのだ。う〜んこれは近年にない出来映えであって、なるほど今年は絵になるぞ、とショージキ唸った。つまりはミヤマキリシマの花園を借景にしての野天宴会に少しばかり欲も覗かせてみた訳です。

 さぁて下界から小1時間で坊ケツルキャンプ場着。色とりどりのテントと大勢のハイカー(キャンパーも)がたむろする中、もちろんあたり一帯を見渡してもMTBライダーは筆者のみ。であれば気恥ずかしさを押さえるためにMTBを押しながら遠慮がちに視線を交わし、そしてはにかみうつむき加減を装って、先遣隊の挟間、高瀬と久方ぶりの邂逅を果たした。すると待ち構えたようにひとしきり平治の山肌の鮮やかさや、途中行程変更をしてエスケープルート(大戸越から直接坊ケツルへ)を取るに至った訳など、あることないこと?申し述べるんですね。であればここは聞き役に徹して(口数の)勢いが収まるのを待ち、落ち着いたところで三人揃って法華院温泉まで足を延ばしたのだ。やれやれ。

 で、九重山開き前日を実感するに充分過ぎるほどの混雑は織り込み済みの筈だったが、新装なった湯小屋から大船山の展望はともかく、まさにイモの子洗いの入湯には少々マイッた。まぁしかし取り敢えずの一点をしるすとともに本命、ビールの買占め?を済ませ、意気軒昂の体で帰途についたのだった。とここまでは全くのシナリオどおり。

 さぁ、矢でも鉄砲でも妙齢のご婦人でも、何でも持ってこい!との意気込みで戻ると、テント場は妙にざわついていて、おっと既に到着の様子。居ました居ました、元妙齢のご婦人二人とおじさん一人が。してその正体は加藤会長夫人の衣子さんと山仲間の下田夫妻であったが、遠くから聞こえていた声はやっぱり彼女たちの高笑いだったのだ。とまぁ、筆者としては少々キンチョーしながら、人見知り顔で小宴の準備に勤しんだが、再度やっぱり、野天小宴会が始まっても、このお姐さん二人は実によくしゃべり、よく笑い、そしてよく飲み、まったく屈託がなかった。これほどまでに天真爛漫に放歌喧噪が出来るのは、きっと育ちがいいのか、もしくは悩みがないとか、はたまた旦那さんたちを反面教師とした結果なのか、真相は分からぬが、新鮮なオドロキでもあった。そしてグビグビとビールは進み、「これじゃ、酔えないわ!」などと宣まいつつ、持参の焼酎や清酒に変わっても、その勢いが衰えることはなかった。恐るべし、熟女コンビだったのだ。

             
             空き缶の転がり具合からだいぶ盛り上がっている様子・・・

しかしまだまだそんなことは序の口であって、好奇心旺盛な下田夫人は興にのると、傍らに留めていた筆者のMTBにやおら跨り、凱歌を上げたのだった。もちろんこのフレームサイズでは足が届かないのは自明の理とあって、男たちを従えて(旦那さんと高瀬がしっかりとMTBを支えて)のパフォーマンスであったが、「坊ケツル草原で雄叫びを上げる」構図は、周りの視線を気にしながらも、うんうんなかなか絵になっていたぞ、と興味本位に申し述べたい。

             

                「一度MTBとやらに跨ってみたかったのよ!」

一方、それなら負けじと加藤令夫人、その清らかなソプラノを惜しみもなく響かせて山の歌を数曲披露するにいたっては、さすがに替え歌600選のレパートリーを持つ夫君に負けず劣らずの芸達者であった。そこでホスト役としては 「この美声、どこぞでレッスン受けてるんでしょう?きっと!」 となどと職務上おもねて聞かざるを得ないんですね。するとすかさず 「レッスンは別府のヒッパレ(※1)でぶっつけ本番なのよ!」 と返す表情が自信に満ち溢れていたね。であれば歌声は更に熱を帯びて、今度はMTB雄叫びお姐さんとデュエットで、夜陰の草原に響き渡ったのだ。 「日々レッスンは怠りなく、我が人生はヒッパレに有り!」 と言ったかどうか、酩酊途上の筆者としての記憶は定かでなかったが、まさに「別府はヒットパレードクラブ」の歌姫、坊ケツルにてリサイタル敢行せり!であった。

おっと我がリサイタルに推されたのか、隣の神戸・中高年おばさんグループのテントからも山の歌合唱曲が漏れ伝わってきたが、歌唱力の差は歴然、やっぱり 「ヒッパレ」 を知らずして歌姫の素養やレベルアップは覚束ないのが道理か、などと立場上おもねたところで、坊ケツルキャンプ宴会ルポをお開きとしたい。

             
                   夜も更けたテントの中でも意気軒昂

とまれ、久し振りのキャンプ大宴会では最上の非日常を味わい、至福のひとときを過ごした訳だが、遊び心溢れる賓客三名や賄い&接待役に徹した先遣隊の挟間、高瀬ご両人には感謝するのみです。

 さて翌朝、下山は往路をアッという間のダウンヒルで下界へ。暮雨コースの二人を待って立ち寄った先は吉部のチョータラ。交通の要衝?大船林道入口の十字路そばなので、吉部方面からの登山者には関所みたいな位置にあり、寄り付きは至極便利だ。筆者は駐車の御礼かたがた、挟間&高瀬は物見遊山?の体でお邪魔したが、爽風吹き、花に彩られたウッドデッキでのコーヒーとケーキは美味かったね。文字通り「チョータラ」そのものであって、しばし九重のなごりを反芻しつつまどろんだ。土日のみのオープンだが、パスタや山菜ピラフなどの軽食もできるので、のんびり時を刻むのに最適。是非、読者諸兄にもお薦めしたいスポットなのだ。(オーナーの鎌田さん、たいへんお世話になりました。)


        

                    アッという間のダウンヒルで下界へ

(※1)正式呼称はヒットパレードクラブ。別府は竹瓦温泉近くのエンターティメントスポットとして老若男女を問わず、最近ブレークしている由、歌って踊って酒も飲めるというので、まぁライブハウスの趣か、或いはダンスホールに似たイメージを想像してしまう。詳しくは「歌姫」に聞くしかないが、オールディーズを生で聞かせてくれるというから、郷愁をそそられるなぁ。

(コースタイム)
6/4 吉部、憩処・チョータラ13:45→(by MTB)→坊ケツル14:41 (法華院温泉入湯、放歌喧騒キャンプ) 
6/5 坊ケツル9:30→(by MTB)→大船林道ゲート9:50 (吉部・チョータラにてお茶 11:10〜11:50)
(平成17年6月4〜5日)

加藤会長からお礼のメール: 「この度は,女房と下田夫妻が大変お世話になりました。いずれも酒豪で驚いたことでしょう。私は南蛮コールの湯布院合宿があり翌朝ぬけだして,3人と合流して例の大窓より平治に登り坊かつるに下り,テントを撤収してかえりました。写真をみてもかなりのビールがころがっていましたね、みんな誰が飲んだんでしょうか?それにしても今年のミヤマキリシマのきれいだったことはかたりぐさになりそうな年でした。この連中と塩月とで今年の夏は剣岳に行きます.8月11日から15日を予定しています。よかったらどうぞ。」(2005.6.8)

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