秋の石鎚山系を縦横無尽に遊び尽くす!の巻 その1 栗秋和彦

 石鎚スカイラインからの石鎚本峰遠望

○きっかけ
 石鎚山系の四季を楽しむことをライフワークにしている挾間から8月下旬、案内のメールが届いた。これまでの石鎚行は彼の発案によってことごとく実現しているので、まず第一段階の手続きがなされた、と見るべきであろう。以下その要旨である。

○趣旨:自転車や石鎚スカイラインと瓶ガ森林道をフル活用し、秋の石鎚を満喫する。
○期日:10月12〜14日(前日夜出発も考慮する)
○日程・内容
 10/12:石鎚スカイライン(面河〜土小屋、標高差850mを自転車でヒルクライム)〜土小屋〜石鎚山頂付近(泊)ビール空き缶投げなど(※1)
 10/13:土小屋に下山後、土小屋〜瓶ガ森(1896m)間の西日本最高所林道を自転車でポタリング。またその足で1700〜1800m級の山々を稼ぎつつ、石鎚主峰を遠望する。夜は小宴会。
 10/14:予備日(大分帰着)
○催行人員:最少1人、最多4人
○個人必需品:マウンテンバイク(MTB)又はロードレーサー、個人登山道具
○参加費用:必要に応じて
 などなど

 「う〜ん、なかなか魅力的なコースではないか」との思いが第一印象であった。と言うのもボクは土小屋以東の山々を知らない。加えて面河から土小屋まで自転車で上る行為に食指が湧く。雲上の山嶺にふもとから自力で登るのに価値があるのだ。そしてその手段として自転車を使うことに陳腐な表現ながら「ナウい!」と思うし、寒風山トンネル出合までつながった瓶ガ森林道踏破も一度は試みなくてはならぬ課題である。

 そして「西日本最高所林道を自転車でポタリング」の触れ込みも少なからず心引かれた。このあたりの挾間の独特な言い回しは、西日本一とか、九州一などと誉れ高い数字に弱いボクの心を見透かすように巧みだ。早速、「参加せずして、人生何のヨロコビがあろうや!」と鼻息荒く?同行を表明した訳だが、面河から土小屋、更には瓶ガ森以東の山々まで移動の手段として目一杯自転車を操るなら、専任の運転手も必要となろう。そこで助っ人として甥の正寿を指名し、おじさん二人に青年を交えた玉石混淆?の遠征メンバーが決定したのだ。

○石鎚スカイラインを攻める、或いは筒上、手箱山などなど
 風景を愛でるにはこれに耐え得る感性と、出し惜しみない体力が必要だ!とは先人の言である。となれば石鎚山系の頂に立つにあたって、ふもとから自分の足で登らなければ達成感は薄かろう。と一応講釈は述べたてても、本音の部分は他の登山者たちとの差別化だ。標高1500mの土小屋まで車で乗り付け、楽々?とピークを踏まんとする大半のハイカーとは、一線を画した登山スタイルを誇示したいがためのパフォーマンスとして、マウンテンバイク(以下MTB)を駆ってヒルクライムに興ずるのだ。その意味では目立ちたがりやのいたって単純な発想であったが、さて延々とつづく登路の実態は如何に?となれば、早朝の出立とあって沿道にギャラリーなどいる筈もなく、挾間と二人黙々とペダルを漕ぐのみであった。人生コツコツと年輪を重ねるかのように、地道な作業の連続であって、もとより派手さなどなく一線を画するつもりも、土小屋を目指すマイカー群は排気ガスを撒き散らしつつ、一瞬のうちに抜き去るだけで、当たり前の話だけど、まるで一人芝居の趣であったわな。

       

 それでも途中からは、車で駆け上がった正寿と合流(挾間のロードレーサーをあてがっており、打ち合わせどおり土小屋に車を置き、自転車で逆走)して、いくばくかは勢いづいたし、深山幽谷の底から徐々に高みを稼ぐことになるので、谷を挟んだ峰々に朝日が当たり、少しづつそのラインが下がってくるのを見遣りながら、刻々の変化を楽しんだ。長丁場ではあるけれど急な勾配はあまりなく、軽いギアでクルクル回せば心拍数はさほど上がることはない。そういった意味では、ヒルクライムレースの如く心臓バクバクの体ではないので、負荷もあまり残らない。おおぎょうに「攻める!」などと挾間が好みそうな表現に多少のためらいも感じるところだが、1時間50分余りを要しても標高差850mを稼いだ事実は厳然として残り、到着時の爽快感は何物にも代え難いのだ。もちろん大勢の登山客でごったがえす、ここ土小屋界隈でMTBフリークはただ一人として認めなかったので、くだんの差別化はしっかり成し遂げたことになろう。独りよがりな感慨は承知の上で申せば、今の時代「オンリーワン」を志向することに意義がある、と言いたいのだ。

              

 さて快晴の石鎚本峰を真横に眺めながら土小屋駐車場での屋外朝食メニューにも少し触れておきたい。何故なら我が物見遊山な隊でも初めての試みとして、山上の路傍で本格的にパスタを茹でてみたのだ。予め用意していおいたミートソースも温めて、粉チーズをかけフォークで食する、このスタイルが尊いと思うし、傍らの遊歩道を行く大勢のハイカーの羨望?の的となり得るところに、もう一つの差別化があった、フフフ...。(しょうもないことにこだわることを笑ってやって下さい。もちろん首謀者は挾間です)

 ところで我々は三人とも石鎚の頂は既に踏んでおり、本日の山歩きは土小屋から南東に派生する筒上、手箱山嶺とした。ここは今夏、挾間が踏破して報告済み(※2)なので、詳述は不要であろうが、何といっても両山とも1800m級の高さを誇り、この山腹には林道がまとわり付いていないので、自然が最も残っている山系なのだ、とはもちろん先導役の挾間の弁。ここはおとなしく聞き役に徹して、ブナ、ミズナラ、ウラジロモミなど石鎚山系随一の自然林が残る小徑を巡ろう。中でも丸滝尾根の頭に位置する顕著な岩峰は自生するドウダンツツジやカエデなどの紅葉に覆われて一服の絵を見るよう。この時期の石鎚山系の山歩きをやめられない由縁なのだ。で、コース全体としてはなだらかなクマザサの踏み跡がつづいているが、一部顕著なアップダウンと懸崖に桟道が架けられているところもあり、まるっきり手放しで歩けるような登路ではなかった。さすがに急峻岩塊山嶺・石鎚の一端を担うルートであったと納得する。

 さてドーム状の頂を持つ筒上山(1859m)へは手箱越から標高差100m足らずだが、これもまた触れ込みどおり急峻であった。途中の岩塊には鎖が付けられており、これがなかなか面白いのだ。しかし少しばかりの注意を払えば誰でも登れるレベルでもある。山上一帯では中高年の婦人パーティも陣取っていてかまびすしいのもその証拠だろうが、そのグループは「ここの下りはコワイなぁ」と宣いつつ不安げな表情で下り支度をしていたのだ。皆、一様にくだんの鎖場に不安を抱いている証拠であって、オバサンたちには悪いが、(彼女たちが)下る前にすばやく行動を起こしたのは言うまでもない。後iに付けばくだんの箇所で待ちぼうけをくらうのは目に見えており、後の行程に支障をきたすかもしれないし、それほどおひとよしではないということ。いつになくスピーディな行動にお互いに苦笑することしきりであった。

                   
                     筒上山山頂直下の鎖場を登る             
                               

 さて行き行きて又行き行く。直線距離で東方2キロに位置する手箱山へは比較的平坦なクマザサ道だ。それでも山頂間近になると小さな岩峰が2、3現れるが(これがまた紅葉の鎧をまとい秀逸だ)、これは北側を巻き、だらだら登りで鈍頂の手箱山(1806m)に着く。もともと木々に遮られて眺望はよくないが、急に出てきたガスに閉じ込められて、することと言えは記念写真を撮り行動食を頬張るのみである。

               それでも復路は未踏の1800m峰を二つ稼いで意気揚々。その勢いで往路は割愛した岩黒山(1746m)を目指した。丸滝小屋を過ぎて尾根へ登路を取り、縦走路からはたかだが150mほどの標高差なのだが、特にこの間のドウダンツツジの朱色に染まった艶やかさには目を奪われた。一方、頂稜部から北東方向に目を転じると、瓶ケ森〜伊予富士へとつながる1800m級の山並みが斜光に映えてまばゆく誘うのだ。明日はあの秀麗な稜線を歩くことができる。変わらぬ好天を願いつつ、先ずはみなぎる気力・体力と三人で共有できた秀麗無垢なこのひとときに感謝しよう。  ⇒ つづく (photo by W.Hasama) 
 
                 
                       岩黒山中腹から筒上、手箱両山を振り返る

(※1)おゆぴにすとHPの「憧憬の石鎚山」欄の「石鎚、秋紀行〜二の鎖元小屋下キャンプサイトに転がったカンビールの謎、その他もろもろ〜の巻」項、参照
(※2)おゆぴにすとHPの「憧憬の石鎚山」欄の「筒上山〜手箱山と瓶ケ森林道」項、参照

(コースタイム)10/11 大分19:40⇒(車、九四国道フェリー利用、内子〜久万経由)⇒面河渓駐車場(以下Pで表す)0:46(泊)
10/12 面河渓P7:17→(石鎚スカイライン ヒルクライムbyMTB 17.1q 標高差850m)→土小屋9:10〜10:35→丸滝小屋11:11〜15→手箱越小屋11:58→筒上山12:18〜44→手箱越小屋12:55→手箱山13:23〜38→手箱越小屋14:02→丸滝小屋14:46〜15:00→岩黒山15:28〜35→土小屋16:05〜23→(瓶ガ森林道 byMTB 6q)→シラザ峠16:40〜50⇒(車)⇒瓶ガ森P17:00(泊) 歩行距離10q        

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