詩117

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  スケッチ その2
                2016.3.28
公園の片隅
若い女がクローバの四葉を探している
そばで
若い男がそれを見ている
しばらくして
若い男も加わって
ふたりで四葉のクローバを探している
やがてふたりは夢中になって探している  
ああ!
この単純さ
この単純こそ若さ


  スケッチ その3
             2016.3.28
タンポポの咲く
土手の斜面に座って
大型トラックの運転手が
シャボン玉を吹いて飛ばしている
近くの空き地にトラックを停めて
昼の休憩時間
もう若くはないトラック運転手が
何故か?
シャボン玉を飛ばしている
シャボン玉は
春風に乗って飛んでいく
飛んで川を渡っていく
運転手はなおも吹き続け
シャボン玉はつぎつぎと川に向かって飛んでいく
それを見ているわたしは
ふと思い出す
わたしの幼かったころの夢を
それはトラックの運転手になることだったことを
ああ 幼い日のわたしの夢を乗せて
シャボン玉が飛んでいく
春風に乗って飛んでいく
そして わたしはまた思う
この運転手の夢は何だったのかと

反歌
シャボン玉飛ばしトラック運転手昼を憩へり
                    タンポポの土手




   スケッチ その4
                2016.4.30
若いカップルが
あやめ池を覗いている
たっぷり水が張られて
あやめは
今が見ごろ

ふたりは肩を寄せ合い
無言で覗いている
あやめの花影を掠めて
白い雲が流れていく
白い雲はふたりの思いをのせて
ゆっくり流れていく──

やがて、白い雲は消え去ったが……
まだふたりは立ち去らずに
居つづけている
池の面にはふたりの姿が
静かに
ほんのりと映り込んでいる
魂の合わさったさまでーーー

    七瀬自然公園のあやめ池にて


  紫陽花の道ーある思い出に
                2016.6.23
紫陽花の咲く小道を
わたしはひとり歩いて行く
かつてこの道を共に歩いた女ひと
その女もすでに亡く
わたしは淋しくこの道を通っている
すでに杖に寄り
ただ一つの面影を追って行く
わたしの目の前に
美しく続く紫陽花の道───
ああ わたしがその女の面影を
抱き続け
人生を歩き続けるかぎり
この紫陽花の小道は終わっても
わたしの中の紫陽花の道は
どこまでも続くであろう