詩118
扉
2016.6.22
書斎に入ってみると
本棚の角に
すずめが一羽
とまっている
この梅雨の季節
雨を避けて
雨宿りに入ってきたものと思われる
だが、窓が閉まっているのにどうして?
妻が空気の入れ替えに窓を開けたままにしておいた
わずかな隙にでも入ったのであろうか?
とまれ わたしが気付いたことに
気付いたすずめは
慌てふためいて
壁にぶっつかりぶっつかりして
狂おしく部屋中を飛び周り
窓に向かった
だが、窓のガラスに阻まれる
すずめには理解できないのだろう
何度も何度もガラスにぶっつかる
わたしは暫しすずめの悲運を憐れんで
見ていたが
やがて窓を開けてやった
すずめはサッと雨の中に勢いよく
飛び出していったが
わたしは
運命の扉を開けてやったことで
そのとき、ふと
神になった気持ちになった
微訂正
田ノ浦ビーチにて
2016.9.22
晩夏のひかりを浴び
モーターボートが
沖を目指している
エンジン音を高鳴せ
白い水尾を長く引いて
水平線に近づいていく
水平線の向こうでは
首を垂れた入道雲が
待っている
モーターボートは
夏を
追いかけて航いく
老いの懐
2016.9.10
一陣の風が窓より吹き込み
わたしの白髪頭を撫ぜ
暦を捲る
驚いて 窓の外を眺めると
樹々は落ち葉を散らし
山々は姿勢を正し少し背伸びをしているよう
空を見上げると
威容を誇った入道雲の姿も失せ
最後の燕が別れを惜しんで旋回している
嗚呼 季節の巡りは違わずに速やかにやってくる
そして わたしはこの風が運んでくる雪を
早くも想う
反歌
秋風を涼し嬉しと思へども早やも想へり次に来る風
落ち葉
2016.9.19
落ち葉が散っている
落ち葉は身をひるがえし
演技をしながら
着地を決めると
裏返る
──見ていると
どの落ち葉も
どの落ち葉も
おのおのの演技を演じながら
着地をすると
一様に裏返る
たまに裏返らないのもあるが
それもすぐにわずかの風で
裏返る
裏返ったところで
安定になる
この発見!
それは 落ち葉が
終焉を迎える姿勢
そして わたしには
落ち葉が安らぎを得ているようにみえる
大地の
大きな手の中で
反歌
見ていれば次から次に散る落ち葉
着地を決めて皆裏返る