詩99

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          2013.2.13
風まだ寒い
土手の道を
若い女が
犬を連れてやってくる
犬はしきりに
地を嗅ぎながら
前を歩いていく
若い女は引っ張れながら
後をついていく
──ときどき立ち止まりつつ

犬が
何かを見つけた
ああ! タンポポの花


  椿
         2013.2.18
庭の椿の木から
椿が一つ
ポトリと落ちて
転がった
何の変哲もない出来事だが
椿は何か叫んだように思われた
そう 椿は知らせたのだ
春が盛りを過ぎたことを
これより
見ることになる
春の過ぎゆく速さを
 正確に知ることになる
       落ちる椿の数で


  スケッチ
         2013.2.20
春の流れを
二羽の鴨が泳いでいる
旅立ちに遅れたのか
拒んだのか
二羽の鴨は
つかず離れず
遅い流れを泳いでいく
そう つかず離れず
間を保ちながら
同じ方向に進んでいく
ああ
このようでありたい
人の世の夫婦の仲も

   芽生え
           2013.2.25
早春の河原で
少年がひとり
流れに向かって
小石を飛ばしている
小石は
春の流れを跳ねて飛んでいく
少年はまた小石を拾って
飛ばす
小石はいよいよ跳ねて飛んでいく

ああ 春はいたるところに来ている
少年の心の中にも来ている
そして──、
少年の心の中にも何かが芽生える


   
           2013.3.1
草萌える
土手の斜面に
なぜか
靴が一足脱いである
靴の持ち主は誰なのか
どこに消えたのか
あたりには
それらしき人物も見当たらない
靴はきちんと揃えておいてある
そう きちんと揃えてーーー
だが 誰も現われない
草土手の
春の真昼のミステリー
蝶が一匹飛んできて
靴に止まった


   スケッチ
          2013.3.9
草萌える
土手の斜面
そこは恋人たちの場所
暖かい日差しに
照らされて
そこでは時間の流れが
とどこおっている
土手の斜面に座した
恋人たちの動きも
止まっている
───手をつないだまま