詩114
馬
2015.9.12
まだ祖父が生きていたころ
わが家も馬を飼っていた
祖父は馬をとても大切に扱ったので
馬は家族の一員のようだった
また馬も家族の一員として
よく働いた
アジサイの花の咲くころ
それは田舎では田植えの時節
馬は最も懸命に働いた
そして 一日の労働が終ると
祖父は馬を丁寧に洗ってやり
その日の労苦を労うように
何度も首を撫でてやった
アジサイの花の前
そのような祖父と馬の姿を
おさないわたしは度々目にし
今でも その姿が強く目に残っている
その祖父もとっくに亡くなり
その後わが家に馬はいなくなったが
あの馬がその後どうなったかは
わたしはすでに郷里を遠く離れていて
わたしの記憶も定かでない
馬は売られていったのか
それとも 祖父よりも早くあの馬屋で
老いて死を迎えたのかーーー
とまれ
わたしは時々懐かしい昔のわが家を思い起こし
そして祖父と馬のことを想い出す
アジサイの季節
盛りの花の前で
熱心に馬を洗う祖父と
祖父に洗われながらおとなしく項を垂れている馬
なぜか わたしの目には
そのときの馬の眼が奇妙に鮮明に
よみがえる
その眼は大きく優しく親しげだが
その眼に愁いが宿っていることには
当事の自分は気がつかなかった
アジサイの季節 その2