詩109
クローバ その6
2014.6.9
クローバを摘み溜めて持って帰り
妻はテーブルの上にそれを置いた
クローバはしばらく置かれていたが
見向きもされないまま萎れてしまい
やがて 妻は無造作にそれを捨て去った
何のために妻はクローバを摘んだのだろうか?
だれに見せるわけでもなく
だれかにやるためでもなく
何のために妻はクローバを持ち帰ったのだろうか?
見て楽しむわけでもなく
なんかに役立てるためでもなく
しばらく虚しく置かれたクローバを
ぼくは見るでもなく目に止めていたが
そこに四葉のクローバが無かったことだけは
‥‥‥‥確か
反歌
クローバを摘みもて帰る妻の癖今も変はらず
老ひに入れども
夏草
2014.8.20
夏草の中に
ボールが一つ転がっている
広場では
子どもたちが
野球にうち興じている
だが この炎天下
取りにくる者は誰もいない
蒸せるような
草いきれの中
忘れられたように
ボールは
いつまでも
いつまでも
そこにある
ふいにわたしは思う
ボールが孵化するのではないかと
‥‥‥‥と
庭
2014.8.22
激しい雷雨の後
くぼみにできた水溜り
刻々と晴れていく
空を映して鏡のよう
夏の乾いた大地に
つかの間できる水溜りは
砂漠の
オアシスのようだ
すずめが二三羽降りてきて
水浴びをしている
由布
2014.9.6
窓を開けると
今日 由布は白い帽子のような
雲を戴いている
わたしは山に呼びかける
──ようやく秋になったなあ!
珈琲を飲みながら
わたしは由布を眺め
ゆっくり 思い出す
このひと夏の思い出を
突然 出会った
一人の女性のことを
向かい合って珈琲を飲んだ
ひと時のことを
だが あのひとはまた遠く去りゆき
そして 熱いわたしの夏も去った
わたしは
山に呼びかける
──ようやく秋になったなあ!
わたしは珈琲を飲みながら
しずかに由布と向かい合い
語りかける
そう
由布はわたしの新しい恋人
永遠にわたしから去ることのない
ーーー恋人!