詩103

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   鐘の音   version
                 2013.7.19
耳を澄ますと聞こえてくる
鐘の音
山のあなたの空遠く
かすかに聞こえてくる
鐘の音
まことのことか
まぼろしか
聞覚えのある
その音色
ああ
じっと耳を澄ますと聞こえてくる
この鐘の音
ふる里の山のお寺の鐘を撞く
その時刻

   秀晃の誕生日に寄せて
                   2013.7.19
息子よ
今日の誕生日にあたり
お前に明かしておきたいことがある
息子よ
お前がわたしたち夫婦のかけがえのない
ひとり息子であることに違いないのだが
お前がわたしたちの愛のたまものであることに
違いないのだが
だが
今日二十四になる息子よ
お前に知らせたいことは
お前の出自
お前をこの世に在らしめた
いわば本当の親
それに比べれば
わたし達夫婦の愛など知れたもの
お前が生まれ出いずるまでの
気の遠くなるような長い時間
気の遠くなるような多くの偶然の累積
息子よ このことに思い至れ
父が明かすのはこのこと
お前の本当の親は
お前という一個の生命を孕んだものは
いわば大きな宇宙

これまでお前を見守ってきた
わたしたち夫婦の愛と力


息子よ
それも今日まで
わたしたちの力もすでに限界
わたしたちの小さな力は
もうお前の助けにはならない
これからお前を見守るのは大きな存在
お前を滅ぼすも
お前を助けるも
あるいは 永劫に生かすも
この大きな存在
息子よ 気付け
お前を孕んだとてつもなく大きな
恵みに
そして 感謝し
委ねよ お前の人生を
決して自我の小さな殻にこもるな
さすれば
お前は見はなされることはないだろう
そう それはお前次第
今や
お前がこのことに気付くことを
わたしたち夫婦はせつに願う


   草の葉 
                   2013.7.29
「草ってなあに」と子供に問われて
──たぶん神のハンケチ
──あるいはたぶん形の一様な象形文字ヒエログリフ
と答えたのは
ウオルト ホイットマン

わたしは
草の葉を一枚つみとって
表にしたり
裏返したりしたりして
見る

そして思う
「草ってなあに」と問われたら と
わたしだったらどう答えるかーーー

わたしだったら、それは
──たぶん神のラブレター
もっとも愛されない者に宛てられた
神よりのラブレター