詩102

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   紫陽花
                2013.6.14
雨の中に
紫陽花が咲いている
雨の中に咲く紫陽花は美しい
そう 紫陽花は
雨に濡れるときがもっとも美しい
わたしは
この観念をもって
雨の中
傘をさして立ちつくし
雨にうたれる
紫陽花を
眺める
いつまでもいつまでも

そして思い出す
一つ傘のもと
二人で眺めたあの時間を


  
                2013.6.23
朝顔の葉に
露がのっている
露は朝日をうけて
宝珠のように輝いている
ああ この露の珠も
やがては消えてしまう運命にある
だが わたしはふと考える
確かに
現象としての露は消えてしまうが、
だがーーー
──金剛の露ひとつぶや石の上
と詠んだのは
薄幸の俳人 川端茅舎
茅舎の露は 不壊ふえ
わたしは露をみながら
この句を思い出し
何故か深く納得する
そして
若くして逝った彼の命が
そこにか輝いているのをみる
 
     鐘の音
                 2013.7.13
耳を澄ますと聞こえてくる
鐘の音がある
まことなのか
まぼろしか
遠くかすかに聞こえてくる
鐘の音
どこか聞き覚えのある
その鐘の音
ああ 耳を澄ますと
ときおり聞こえてくる
この鐘の音
ふる里の山のお寺の鐘を撞く
丁度その時刻
 
     即興
             2013.7.6
雨上がりの
紫陽花の葉のう上を
蝸牛が
角を出して這っている
愛らしい威嚇
わたしが意地悪に
指を近づけると
蝸牛はすっと角を引っ込めて
殻にこもり
まるで子供のように
世界を閉じる
わたしは指をもどす
紫陽花の葉のうえの平和

    白い線
              2013.7.19
窓を開けると
遠くの窓カラスの
反射光が鋭くまなこを射る
わたしは目をそらして
空を見上げる
乱立するビルのうえ
久し振りに見上げる空は
高く青く広がり
一筋の飛行機雲が延びている
───遠く入道雲ものぞいている
わたしは窓を閉める
窓ガラスに
はっきりと引かれた白い線
それは確かに梅雨が明けた