詩63
交響曲「運命」に寄せて
09.11.1
カーステレオで
ベートベン作曲交響曲第五番を
聴きながら
わたしはハンドルを握っている
わたしの前途に待ち受ける
一つの「運命」
そう
「運命」に向かってわたしは車を走らせている
「運命は扉を叩く」
いま わたしの「運命」が扉を叩いている
わたしの胸は弾み 期待に昂まる
だが しかし 同時に不安に慄く
突如 明るい曲も音色を変えて
ますます不安を募らせる
軈て
曲のテンポはゆるくなり
わたしはアクセルを緩めスピードを落す
道は長いカーブにさしかかり
前途は見えにくく
いよいよわたしの不安をかきたて
風景も姿を消してしまう
いつしか道はカーブを抜けて
曲は第三楽章に入る
突然 管楽器の明るい音色が響きだし
わたしの不安な気持ちを和らげ鼓舞する
わたしは次第に明るさを取り戻し
するとまた風景も現れてくる
前方には真直ぐな道が見え
遠く美しい田園の景色が広がる
わたしはアクセルをグイと踏み込み
しっかりと「運命」のハンドルを握る
わたしは突き進む
わたしの前途に待ち受けている
「運命」がいかなるものであろうと
未来に向かって延びたこの道を
はるかに時空を超えて
聴こえくる
偉大な音楽に導かれながら
二連以下、それぞれ第1楽章、第二楽章、
第三楽章、最終楽章に対応する
ある微笑
09.12.1
ぼくは朝から
ひとつの謎解きに迷っている
実はもう幾日も
この謎に悩まされている
それはある女性がみせた微笑について
こちらを振り返ったときに
ちらりとみせた微笑について
その意味は何だったのか
およそ微笑ほど不可解なものはない
それはモナリザの微笑のように
永遠の謎
だが
「永遠」はひとつの答えを与えてくれる
それは深さ
女性の底知れない深さ
無題又は新プラトン主義(拾遺)
04.9・19
人里離れた山陰の
泉の縁の苔むす岩根に
人目を避けてひっそりと
咲く一もとの白百合
鏡なす泉の面おも
くもりなき水面に映える
清らな花影を見る人もなく
讃えるものもたえてなし
泉を知れる村の乙女
ある日泉を汲みに来て
泉に映るその白百合を
愛めで折りとりて去りゆきぬ
折られし百合は枯れゆけど
泉と汲まれし花影は
乙女の胸に秘められて
永遠とわに変らぬ清らかさ
古いノートに見つけて