詩11
   あざみ台にて
               2004.11.23
遥か大阿蘇を望む高台
そこにある
有料の双眼鏡
あいにくの曇り日に
覗く者もなく
ひっそりと立つ双眼鏡

   近くで遊んでいた
   少年が
   母親に頼んで
   百円硬貨を入れた

少年は 期待にみちて 
目を押しつけて
暫く 遠く近くを覗いていたが
見えない風景に
ついに 諦め
母親に譲った

   母親も覗いてみたが
   見えない阿蘇に失望し
   すぐに目を離し
   父親が替わった

最後に覗いた父親は
しかし
いつまでも
目を離さずに覗いていた
まるで 父親だけには
大阿蘇が見えるかのようであった

  あざみ台
            2004.12.5
遥か大阿蘇を望む高台
そこにある
有料の双眼鏡                 あいにくの曇り日に
覗く者もなく           
ひっそりと立つ双眼鏡     

嘗てこの世で
最も美しい瞳が覗いた
双眼鏡
あいにくの曇り日に
覗く者もなく
淋しくひっそりと立つ

そのかみの日
二人して覗いた阿蘇は
雄々しく 誇らかに
白い煙をたなびかせ
ぼく等の前途を心から
祝福してくれているかのようだった

思い違いの悲しさよ
今日ひとり来て立つ
あざみ台
あいにくの曇り日に
阿蘇はすっぽり雲に覆われ
眺める人とてない

いま一度 
ぼくは覗くべきであろうか
いま 重い悩みに塞がれ
何も見えない自分に
ふさわしい
その眺めを−−−

ああ!ぼくは覗いてみた
あの日のように
目を押しつけて−−−
すると 見えたのだ
白い噴煙を大空にたなびかす
大阿蘇の姿が はっきりと
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