詩12
やまなみハイウエー
2004.12.29
枯野を走る
一台の中古のセダン
歓楽の街衢は遠く
バックミラーの彼方に去り
行く手に広がるは
色褪せた風景
目を楽しませるものとてない
殺伐の曠野
そして 何処までも続く一筋の道
走り続けるは
中古のセダン
恋も憧れも希望もなく−−−
ああ!
蕭条として続く道
果てしない道
あてどなく
どこまでもどこまでも
走り続ける
一台の中古のセダン
そのハンドルを握るのは誰?
ウエストミンスター橋
2004.12.28
憧れの
ウエストミンスター橋を
ぼくは ついに渡った
テムズ河に架る
あの橋
1802年9月3日の早朝
詩人ワーズワースが渡り
詩に詠んだ橋を
1988年8月2日の朝
希望とともにぼくは渡った
次へ
そして
期待に満ちて眺めた
ワーズワースが見た風景を
−−−−−−−−−−−−
しかし
そこにはなかった
ワーズワースが見た風景は
もう何処にもなかった
ただ あの
「力強い心臓の音」
(目覚めた大都市の鼓動)
ワーズワースはそのとき聞かなかった
大いなる鼓動は
しかと聞くことができた
それは むしろぼくを畏怖させ
耳について離れなかった
時は流れて幾十年
いまでは
遠い記憶の彼方に
街も塔も寺院も河も霞んで
いつまでも聞こえていた
あの巨人の鼓動も いつしか
弱まり
ついに 聞こえなくなった
そして
あの時ぼくが見た風景も見えなくなった
すると不思議なことに
今度は
ぼくには見えなかった風景
ワーズワースが見た風景が
代わりに見えだした