詩57
  コスモス
               08.10.16
コスモスの花を眺めていると
目に見えてくる
ひとつの彫刻がある
<ブロンズの女人像>
それは私の親しい友人の作品である

私は頼まれて
この像に
「コスモス」と題名をつけたことがあった
コスモス<秋桜>に通じるものを
確かに感じたからである
しかして
この像は彼の自信作であり
彼はその秋の美術展に
この像を出品したが
はたして
作品は「大賞」を獲得し
彼はその知らせと
命名への感謝の気持ちと
その記事の載った新聞とを
遣した
私はさっそく新聞を開き
その選考の評を読んでみて
大いに驚いた
審査員氏は題名のコスモスを
コスモス<宇宙>と解していたのである
コスモス<秋桜>とコスモス<宇宙>
二つは外延を全く異にする言葉である
この審査員氏の誤解は
私には腑に落ちないものであった
友は無頓着を決め込んでいたが
私の鑑賞に非があったのか
審査員氏の誤解のほうに道理があるのか
こだわりとなってこの疑問は
以後、いつまでも私の心に残った
コスモス<秋桜>とコスモス<宇宙>
あるいは
この二つの言葉には
もともと
惹かれあう何かがあるのであろうか

風に靡くコスモスの花を前に
天高く青く澄み切った空を見上げながら
今日も私は
この疑問を思うのである
    地球儀
                 08.11.29
小学生のころ
父が買ってくれた
小さな地球儀
その地球儀を回して
想いをめぐらせる

その往古むかし
地球が丸いと考え
その大きさを算出した
ギリシャの哲学者エラストテネスのこと

帆船を連ねて
未知の海原にくり出し
初めて 世界を一周した
マゼランとその一行の
冒険と苦難にみちた航海

あるいは
人工衛星スプートニクで
地球を周回し
人類初の宇宙飛行士となった
ユウーリ・ガガーリンの
「地球は青かった」のメッセージ

だが、しかし
最も ぼくの心を揺さぶるのは
アポロ11号のクルーが
月面から送ってよこした
あのリアルタイムの地球の映像
それは まるで
ぼくの小さな地球儀そのものであった

それ以来
ぼくには ぼくの地球儀が
漆黒の空間に宝石のように輝く
あの孤独な天体にみえてきた

そして、地球儀をみていると
ぼくは いつしかさそわれて
遠い宇宙の彼方──旅する宇宙船の窓から
美しい美しい惑星をながめている
自分を夢想し
うっとりとするのである が

でも、気づかない訳にはいかない
その宝石のいたるところにある傷に
球体にはしる無数の罅割れ
────────────国境線に
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