詩56

   若冲の絵をーーー
                 08.10.13
若冲の絵を観ていると
草の葉っぱに
無数の虫食い穴が描かれているのに
気づく
以来、私は
注意して草の葉っぱを見るのだが
確かにどの葉っぱにも
必ずといっていいほど虫食い穴は存在する
当然といえば当然なのだが
どの絵にもそれが描かれなかったことは
むしろ
私の驚きであった
とまれ
葉っぱに虫食い穴を描いたことで
若冲の絵の葉っぱはより親しいものになり
また
葉っぱの虫食い穴を見る度に
私は
若冲を身近に感じるようになった
いわば
それ───虫食い穴は
私と葉っぱと若冲を繋ぐ
こころの通路の役目を果たしている──といえる
しかして
私は
また
ある言葉を
思い出す
───全ての存在の中を一つの空間が通っている
───それを通じて世界は通じあう
という詩人リルケの言葉を
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セイタカアワダチソウ
           08.10.17
セイタカアワダチ草よ
外来種の嫌われものだった
お前も
いつしか我が風土に
根付いてしまった

鉄道の沿線に
風になびくお前を
見ることなしには
今では
私の秋の風景は定まらない

お前の強靭な繁殖力は
横暴に
大和の草花をおしのけ
いたるところ
あたりかまわず蔓延る が

私は いまも
お前の中にそっと隠れて
わずかに群れをなす
野菊の花を見つけると
とてもいとおしくてならない


  
           08・10・20
ぼんやりと
海を眺めていると
心の目に見えてくる
一枚の絵がある
 青い海原に青い空
 白い帆をはるヨットが一艘
 かもめが数羽手前に大きく
 水平線に夏の雲
誰の絵だったか忘れたけれど
ぼくの心の額縁に収まっている
その絵をぼくは手にいれることは
出来なかったけれど
絵は今も
ぼくの心の額縁に
しっかりと収まっている
          田ノ浦ビーチにて