詩36
   ゴッホ
              2005.12.2
絵を描いている
ゴッホの夢を見た
ゴッホは南フランスの
明るい風景の中に
一人キャンバスを据え
一心不乱に描いている
忙しく筆を動かし
激しいタッチで
ずんずん描いていく
そこだけ時間が速く流れて
絵はみるみる仕上がっていく
見るとそれは平凡な風景画である
南フランスでは何処でも見かける
麦畑と糸杉の絵である
ただ黄色い麦畑に糸杉を描いただけの絵
しかし
絵は永遠の時間を塗りこみ
色彩は内なる輝きを秘めている
私は不思議に思い
ゴッホに質問した
するとゴッホは
    命を削って絵の具に混ぜているのだ
と答えた

   スケッチ(三)
                2006.1.2
落ち葉の舞う並木道を
若い恋人同士が
手を繋いで歩いていく
にこやかに何かを語らいながら
−−−将来の夢を語っているのであろうか?

二人は楽しげに
足取りも軽く歩いていく
沿道の木々たちがしきりに手を振り
赤く色づいた落ち葉をふりかけている
二人はその中を歩いていく

ああ
若い二人はいま
しっかりと繋いだ手をはなさずに
敷き詰めた赤い絨毯の道を
幻の宮殿に向かって歩いている

   公衆便所
                 2005.12.11
樅の木のある公園の
こぎれいな公衆便所
そこに入ると
しばし浮世を忘れる

白い陶器の便器の前に佇み
おもむろにジッパーを下ろし
用をたす−−−
その間の「無心の境地」

その時
人はひとりの人間となり
「本来の自己」にたちかえる

そして
命のかたちを見据え
生命のつながりを感じる

隣りに立つ人との連帯感
用を終えた後の安堵と充溢

人は
またジッパーを元に戻し
公衆便所を出ていく

その時の爽やかな顔

  珈琲を飲みながら
                  2005.12.18
一杯の珈琲を飲みながら
詩を作る
それが ぼくの
人生の喜び
「コーヒースプーンで自分の人生を量り尽くした」
とうたった西欧の詩人がいるが
所詮人生とはそんなもの
バイロン
ハイネの情熱も
芭蕉の寂びも
みんな本棚に置いたまま
「珈琲一杯の幸」
それが ぼくの幸せ
銀のスプーンで
珈琲をかき混ぜながら
ぼくは宇宙をかき混ぜる