詩34
           
   スケッチ(二)
                   2005.10.30
喫茶店の隅の席で
若いカップルが珈琲を飲んでいる
にこやかにゆっくりと
会話を弾ませながら
黄金の時間が二人を取り巻いている
時折男は
女の瞳を覗き込んでいる
女はまっ直ぐ前を見すえ
静かに珈琲を唇(くち)に運んでいる
瞳には男の姿がくっきり映っている
男はまだ盗み見るように
女の瞳を覗いている
しきりに覗いている
女は微笑みを返している
その瞳は慈愛に満ちている
彼女の黒い瞳は告げている
すでに
いつでも
母親になる用意ができていることを

  メンタルスケッチ
                2005.11.3
窓に
白い雲がぽっかり浮かんでいる
わたしの目は
ていねいに雲の形をなぞる
白い雲は
象になり
鯨になり
船になり
ゆっくり窓を動いていく
心はそれを追いかけていく、が
やがて
雲は消え去り
わたしの心は空虚になる
すると
そこに
空がなだれ込み
わたしの心は
たちまち
秋の空でいっぱいになる
  友の京に行くを見送りて
                2005.11.13
ゆく秋のプラットホームで
京都に旅立つ
友を見送った
友は
ある古刹の
観音菩薩立像を観に行くという
まるで恋人に会いに行くかのように
いそいそと友は列車に乗り込んだ
私は
晩秋の紅葉に彩られた古都を想い
この時期
京都を訪れる友を羨み
友がいう
古いお寺の
観音菩薩のお姿を想像してみた
すると 突然
私の目の前に
金色に輝く観音菩薩が出現し
−−−もう千年も
−−−友の来るのを待ち続けている
と 告げて去った


  銀杏の樹
            2005.11.20
故里の小高い丘の上に
ひっそりと立つ
一本の銀杏の樹
知る人ぞ知る
一本の大きな銀杏の樹

秋来れば
惜し気もなく
黄金を撒き散らす