詩32
スケッチ
2005.9.10
喫茶店の片隅で
若い女性が一人
コーヒーを飲んでいる
時間を気にする様子もなく
誰かを待っているようでもない
ひとり静かに
金のスプーンで
丁寧にコーヒーをかき混ぜている
自分の運勢を占うように
それから−−−
彼女は
ゆっくりコーヒーを飲み始めたが
やがて飲み終えて
徐に顔を上げると
瞳に
「未来」が映っていた
海
2005.9.19
海に向けて白いベンチが置いてある
ベンチには一組の男女が
座っている
海には鴎が飛んでいる
二人は手を繋いで海を眺めている
いつまでも黙って眺めている
時々 鴎が心配そうにやってくる
二人の様子をうかがいに
二人は黙って遠くを見つめている
水平線の彼方を見つめている
水平線の向こうでは
入道雲がじっと静かに待っている
これから始まる
二人の航海を
人生の大海原に漕ぎ出す
二人の出航を
<喫茶店の写真を見て>
ある葬儀
2005.9.15
私達はめいめい花を手にして
棺を囲んでいる
昨日亡くなった若い女性に
最期の別れの花を手向けるため
死化粧を施された
美しい清らかな顔は
今 とりどりの花に埋もれて
永久(とわ)の眠りについている
不治の病に冒されたあなたは
一時退院を申し出て
その夜 止められていたお酒を飲み
次の朝 天国へと旅立った
あなたは本当に天国を信じていたのか?
あの朝 あなたは
ビルの高みから
鳥のように羽ばたき飛立った
しかして あなたは地上に落下した
確かに あなたの身体は−−−
しかし、魂は中途で白い翼を得て
あなたは天国へと舞い上がった
本当にそうだ−−−
棺に横たわるあなたのお顔の
安らかさよ
あなたのお顔に地上激突の苦痛はない
ああ 花々に囲まれて眠る
あなたの美しい清らかなお顔は
まぎれもない
天使のお顔