詩28
ガード下の蝶
2005.8.9
ガード下の下闇に
迷い込んだ一頭の揚羽蝶
花も木もなく空もない
慌てふためく黒い翅
しきりに通る車を避けて
怯えるごとく舞える蝶
さまよえどさまよえど
出口も見えぬ闇の中
狂い惑える胡蝶には
ガード下の暗闇は
暗黒世界か地獄かと
やがて見え来る微かな光
ようやく抜けて出てくれば
入道雲のお出迎え
ナメクジに
2005.8.20
ナメクジよ
お前は二本の角を持つが
それは
攻撃のためでもなく
防御のためでもない
虚仮威しのようなものでもない
お前に威嚇のしぐさはなく
身を守るすばやい動作もない
ナメクジよ
お前の二本の角は
むしろ愛らしくさえある
お前は怒ることも知らず
反撃することもしない
忍辱(にんにく)の権化のような
お前の姿を
人は嘲りのことばとして使う
だがナメクジよ
雨上がりの
紫陽花の葉っぱに身を這わせ
微かな後光をまとう
お前の姿が
まるで聖者のように見えるとき
嘗て塩をふりかけた自分を
悔いずにはいられない
ふるさとの石に
2005.8.15
ふるさとの広場の隅にある
でっぱった大きな石
ぼくらはいつも憎んでいた
お前が意地悪く睨んでいるので
ぼくらはのびのびと遊べない
実際
お前がたびたび邪魔をするので
ぼくらの遊びは駄目になる
お前のために
ぼくは大事な前歯をへし折った
それから幾十年
広場には
ぼくらの姿はもう見られない
広場はいつしか草ぼうぼう
お前を知れる人も稀
それでもお前はそこにいて
やはり広場を睨んでいる
昔のままの顔をして
ぼくらの帰りを待っている
辛抱強く待っている
石よ
お前はただの石
半ば草に隠れた一塊の火成岩
しかし 今ではお前も懐かしい
お前に会えるのが嬉しい