詩4
    海2   
              2004.8.7
夏の海が見たくなり
ただそれだけのため
高速道路にのって
車を走らす
カーステレオで
ベートベンを聴きながら

岸壁に車を止め
松陰に身を寄せ
目の前に広がる
青い海原を眺めながら
カーステレオのボリュームを上げ
交響曲の第5番を聴く

壮麗な調べに身を委ね
遠く水平線の彼方に
思いを馳せ
運命について考えあぐんでいると
一羽の鴎が近付いてきて
糞を落して飛び去っていった


   8月7日・立秋
                2004.8.7
朝、一歩踏み出すと
玄関先に
色づいた一枚の葉っぱが落ちていた
目を上げると
屋根の上には
まだ入道雲が居座っているが
首を垂れ
いつものあの姿ではなかった
木々は姿勢を正し
少し背伸びをし
高くなった空では
燕が旋回し
しきりに別れの挨拶を送っていた
木々が応えて強く手を振ると
また何処からか
色づいた葉っぱが一枚
舞い降りてきた


   8月6日
              2004.8.9
入道雲が
きのこ雲を想わせる
原爆の日
ふと見上げると
街の教会の尖った屋根に
一羽の鳩が止まり
朝日を浴びていた。
どんよりした空が
今日の暑さを予感させる
いつもとどこも変わらない
平凡な朝の
8時15分−−−。
教会の鐘が鳴り
鳩は空へ飛び立ったが
それは
天使の羽ばたきに想われた。

   海3
           2004.8.14
人影も疎らになった
晩夏の浜辺を歩いていると
行く手に
突如歓声があがった
急いで近づいてみると
一匹の亀に
数人の少年が
石を投げつけていた
亀はときどき首を引っ込め
必死に逃れていたが
歩みは遅く
その形相は痛ましかった
ぼくは止めることをせず
その光景を暫く眺めていた
やがて亀は波打ち際にたどり着き
青い海原へと消えていった
少年達も諦めて
今度は波に向かって石を抛り始め
ぼくも浜を去った
帰りの電車に乗り
つり革につかまり
ゆられながら
去りゆく海を眺めていると
その情景がまた目に浮かび
朝、テレビのニュースでみた
戦火を逃れる
民衆の姿と重なった