詩25
汽車
2005.7.23
汽車が通るのを
いつまでも
待っていた
幼い日
汽車が通るたび
いつも
手を振っていた
幼い日
その頃の汽車には
機関車トーマスのように
顔があった
丘の上のヨット
2005.7.30
海から遠く離れた丘の上に
一艘のヨットが置かれている。
丘の一隅の草むらのなか
何故に
ここに置かれているのか?
半ば傾いた形で据わっている。
すでに白いペンキも剥げ落ち
帆柱もなく
底には雨水を溜めて
うち捨てられたように
生い茂る夏草のなかに置かれている。
このヨットは
もう誰のものでもない。
だが 時たま
丘を上って来た子ども達が
このヨットに乗って遊ぶとき
私の目には
はっきり浮かぶのだ
帆にいっぱい風を孕ませて
青い海原を疾走する白い船体と
それを操る得意げな顔が。
池の鯉
2005.7.31
池の中を鯉が泳いでいる
鯉はすいすいと泳いでいる
池には
青い空が映っている
白い雲が浮いている
いつのまにか鯉は
空を泳いでいる
広い空を悠々と泳いでいる
鯉幟のように泳いでいる
鯉はもう
池の鯉ではない
大空をいくそれは
魚ではない
それは−−−
龍である
丘
2005.8.1.
ぼくは今でも丘に登るのが好きだ
丘に登ると
少し空に近づいた気持ちになり
遠くの海も見えてくる
丘の斜面の草むらに寝転んで
白い雲を眺めながら
ぼんやり物思いにふけっていると
かすかに潮騒の音も聞こえてくる
耳を澄まして聞きいると
近くを流れる谷川のせせらぎも
やさしく何かを語りかけてくる
−---風に乗って時々街の音も聞こえてくる
そして こんな時
ぼくは:ポケットに忍ばせてきた
一冊の文庫本の詩集をとり出す
青春をもう一度ゆっくり味わうために