詩98
  水仙 その4
           2013.1.24
わが家の庭に
水仙の花が咲いた

寂しかった庭が少し
にぎやかになった

妻がよろこんで
じっと眺めている

水仙の花はみな
少しうつむいている

剪られるのを
知っているようだ


   朝の窓
              2013.1.30
起きぬけに窓をのぞくと
いつもみる遠くの峰が
今日は雪を戴いている
幾重にも重なる
山々の上に
白く聳える尖った峰
この風景は
窓の額縁に納まり
まさに名画をなしている
わたしは
この絵を鑑賞しながら
ひそかに思う
この絵に勝る名画は
世にまたとないだろう
そう これは
神の筆になる絵なのだから と
だが わたしが心のなかで
この名画の値踏みをしていると
絵はにわかに変容し
たちまち
ただの陳腐な風景画になった
   春の窓
            2013.1.30
春の窓を
雲が過ぎていく
わたしは
頬杖をついてながめている
雲は
ゆっくり
ゆっくり
流れていく
そう ゆっくりでいい
人生もまた
ゆっくりであっていい
雲も
人も
最後は消えてしまうのだから

 反歌
現はれて窓を過ぎ行く春の雲
        ながく見てをり頬杖をつき


   2月3日土手にて.
              2013.2.3
立春の
まだ風の寒い
土手の道を
若い母親が
乳母車を押していく
若い母親は
春を見せようと
乳母車を押していく
乳母車の
こどもの顔は見えないが
こどもはきっと眠っている
──春はどこにも見えないので

それでも若い母親は
るんるんと
軽やかに乳母車を押していく
春はどこにも見つからないが
そう 乳母車を押していく
この光景は
       まさしく春
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