詩94
   川端康成所蔵の埴輪
               2012.10.22
それは
「乙女頭部」と題した
にぎり拳ほどの小さな埴輪だった
目と口を箆で抉り
鼻と耳をくっつけただけの
いたってシンプルな顔の造型に
なぜかわたしは惹きつけられた
わたしは立ち止まり
ガラスケース越しに
その小さな素焼きの顔を
しばらくじっと眺めていた
すると──不意に
そう、不意に
乙女の顔は
大きくなり
人の顔のサイズになった
わたしはおもわず身をのりだし
その醇朴な
古代の顔に見入ったが
そのとき
わたしは気付いたのだ
実は 観られているのは
わたしたちのほうだと

「川端康成の眼」展
(竹田市立歴史資料館)にて
 
 12月25日微修正
   蟷螂かまきり
               2012.10.30
蟷螂よ
お前の姿を
馭者にたとえた俳人がいたが
───蟷螂は馬車に逃げられた馭者のさま  草田男
お前の鎌をかまえた
そのこけおどしの威嚇
その真顔
笑わせるネ
わたしには
お前は道化役者

だが 蟷螂よ
わたしも嘗ては──幼い日
お前を怖がったことがある
お前のふりあげた鎌に
恐れをなし
その面構えに怯え
おもわず手を引っ込めたものだ
その頃のお前は
いつも悪役

蟷螂よ
お前たちの間では
交尾のあと
メスがオスを食ってしまうという
ああ なんたる非道、冷血
身の毛もよだつ
おぞましき仕業
あるいは それも天が書いたシナリオ
するとお前たちは
むしろ 悲劇役者

蟷螂よ
もう笑えないネ
お前の顔が
女房にみえてきた


*俳人中村草田男の卓抜な譬喩に敬意を表して
*天がヒトに観せるために書いたシナリオの意

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