詩92
仏
未詳
その村には古い寺があり
少年はよくその境内で遊んだ
寺には白髯の住職がおり
少年のくるのを楽しみにしていた
少年と住職は仲良しになり
住職はしばしば御仏の話を聞かせた
無垢な少年はその話に聞き入り
次第に興味を持ちはじめた
そんな様子をみて住職は
少年に次のように告げた
本堂の仏像の前で手を合わせ
無心に祈れば必ず御仏が現われる と
少年は言葉を信じ
本堂の仏像の前で
手を合わせ
無邪気に祈った
でも 御仏は現われてこなかった
少年はたびたび寺を訪れ
熱心に祈ってみたが
一向に仏は現われなかった
少年はいつしか諦めて
やがて 寺にも近づかなくなり
住職とも疎遠になり───
成長をとげっていった
成人した村の若者たちは
一人またひとりと村を去っていく
少年もまた成人し
ひっそり村を出ていった
歳月ときは流れ流れて 幾十年
人生の旅路を終えて
年老いた旅人は
再び村に戻ってきた
村の寺ではとうに住職は代わったが
寺は昔のままだった
老人はまた寺を訪れて
本堂の仏像の前で手を合わせてみた
すると その目の前に
無邪気に祈る少年の姿が現われた
その眉間からは
一条の白光が放たれていた
2012.8.26
反古のなかに書き散らしてあるのを
整理していて見付け、捨てるのは惜しいと
思い、少し手を入れて載せる。
大観峰にて
2012.9.25
ここ大観峰──
竜胆の花
やさしくわれを迎え
過ぎし日のことを語るがごとし
阿蘇の五岳
隠す雲とてもなく
中岳に上る噴煙
われに手をふる
外輪山の一隅で
野菊を摘みし
あの女ひとは
今は何処に‥‥
ここ大観峰に立ち
双眼鏡で眺めれば
近づく阿蘇は
──昔のまま
反歌
天高し双眼鏡で眺めれば
阿蘇は近づく野菊の前に
阿蘇遥か肥後と豊後の分かれ路
野菊の花の風に吹かるる