詩89
華厳
2012.7.5
雨上がりの
草の葉には
露の玉がたくさんのっている
草の葉はわずかに撓っていて
露の玉はこぼれずにのっている
よくみると
露の玉には みな
ちいさな太陽が宿っている
草の葉には宇宙がのっている
梅雨明け
2012・7・9
久しぶりに
屋上にのぼり
両手をあげると
青い空が降りてくる
梅雨の季節が終わり
世界はまぶしく輝き
ビルの窓ガラスの
反射光が
するどく眼を射る
わたしは眼鏡を拭いて
遠くを見る
すると
たがいに青を競う
空と海とが
ひとつになるあたり
白いヨットが一艘
帆を上げて航く
阿蘇慕情
2012.7.15
わたしはこの頃しきりに
阿蘇のことを想う
もうずいぶんわたしは
おまえに会っていない
おまえが白い噴煙を
青空に高くかかげて
手をふる姿を
わたしは今日も想い描く
机上に飾った
おまえの写真をわたしは
恋人のように切なく眺め
また会いたいと思う
そう わたしはもう歳をとったが
おまえは いまも
ありし日の姿のままに
わたしを待っている
ああ わたしの心は
猶も おまえにあこがれるが
わたしの老いた脚は無情に拒む
「阿蘇は遠くにありて想うもの」
と
─俳句拾遺
噴煙や野菊に隠る道しるべ
(登山道)
朝
2012.7.22
街空に気球があがり
団地の家々は
いっせいに窓を開ける
おはよう と
子どもたちが呼び交わし
向日葵の花がほほえむ
蝶が一羽
窓より舞いこんできて
「梅雨明け」を告げた
余白のために