詩87
  ばらあら ばらあ
              2012.6.9
雨が降る中
蛙が声をあげている
   ばらあら ばらあ

蛙は雨を喜んでいる
人は雨を嫌がったりもするが
蛙は率直に喜ぶ
   ばらあら ばらあ

ジュラ紀の太古
蛙の先祖は
知っていた

地上に生あるものは
全て雨の賜物
雨なくして生命はありえない

この確かな真理を伝え
以来 二億年
蛙たちは脈々と
子孫を保ってきた

しかして──
天を仰いで
蛙は歌う
雨への賛歌を
声高らかに歌う
   ばらあら ばらあ

「ばらあら ばらあ」は草野心平の蛙語
   アジサイの顔
              2012.6.25
窓の外に
アジサイの花が咲いている
頬杖をついて
眺めていると
花はいつしか人の顔になる
その昔──青年のころ
それは きまって一つの顔であった
ある女の顔
わたしは うっとりと眺めて
とても美しいと思った
その後
顔の主は幾度か変わったがーーー
───今
アジサイの花を眺めていると
花には幾つもの顔が現れてくる
母の顔
父の顔
親友の顔
叔父たちの顔
祖母や祖父の顔もーーー
それらはもうこの世にいない人たちの顔
それらの顔は
どこかやすらいでいて
どの顔も また美しい
そう どの顔も美しい──
それらの顔は
むしろ 昔見た一つの顔よりも
もっと美しく見える
そして わたしは
ひどく悔いる
何ゆえ生前に気付かなかったのか

           

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